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・・・ 海には遊船はもとより、何の舟も見渡す限り見えないようになっていました。吉はぐいぐいと漕いで行く。余り晩くまでやっていたから、まずい潮になって来た。それを江戸の方に向って漕いで行く。そうして段やって来ると、陸はもう暗くなって江戸の方遥に・・・
幸田露伴
「幻談」
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・・・しかし花があり月があっても、夜景を称する遊船などは無いではないが余り多くない。屋根船屋形船は宵の中のもので、しかも左様いう船でも仕立てようという人は春でも秋でも花でも月でもかまうことは無い、酒だ妓だ花牌だみえだと魂を使われて居る手合が多いの・・・
幸田露伴
「夜の隅田川」