・・・女房の方が道案内をする。その道筋は軌道を越して野原の方へ這入り込む。この道は暗緑色の草がほとんど土を隠す程茂っていて、その上に荷車の通った轍の跡が二本走っている。 薄ら寒い夏の朝である。空は灰色に見えている。道で見た二三本の立木は、大き・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・「おじいさん、どうぞ道案内を頼みます。」と、彼らはいいました。 このときまで黙って、月を見上げていた、年とったがんは、「ここから、北へ、北へと飛んでゆけば、その地方へ出られるような気がする。ゆくなら今夜にでも、すぐに立とうではな・・・ 小川未明 「がん」
・・・女は、やさしい仏さまに道案内をされて、広い野原の中をたどり、いよいよ極楽の世界が、山を一つ越せば見えるというところまで達しました。「さあ、もうじきだ、この山を越すのだ。」と、仏さまはいわれました。 女は、青竹のつえをついて、山を上り・・・ 小川未明 「ちょうと三つの石」
・・・その客というのは東京のあるレコード会社の重役でしたが、文子はその客が好かぬらしく、だからたまたま幼馴染みの私がその宿屋の客引をしていたのを幸い、土産物を買いに出るといっては、私を道案内にしました。そして、二人は子供のころの想い出話に耽ったの・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・そこには武石と、道案内のスメターニンとが彼を待っていた。 松木と武石とは、朝、本隊を出発して以来つづけて斥候に出されているのであった。 中隊長は、不機嫌に、二人に怒声をあびせかけた。「中隊がイイシ守備に行かなけりゃならんのは誰れ・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・女房の方が道案内をする。その道筋は軌道を越して野原の方へ這入り込む。この道は暗緑色の草が殆ど土を隠す程茂っていて、その上に荷車の通った輪の跡が二本走っている。 薄ら寒い夏の朝である。空は灰色に見えている。道で見た二三本の立木は、大きく、・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・「おやおや、怪しい道案内だな。――誰か訊く人はないか――訊いて見よう」「大丈夫よ、じゃあ此方」 一つの共同風呂の窓が開いていた。強い硫黄の香が漂い、歩きながら人気ない幾つもの湯槽が見下せた。湯槽を仕切る板壁に沢山柄杓がかかってい・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・さようなら、さようなら貴方の道案内は小さい白犬がするでしょう。忘れて下さいますな、美くしいやさしい人」詩「さようならさようなら」と帽子を振りながら門を出ました。女のかおはいつまでもいつまでもみどりの木立の間に見えていました。 旅人は・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
出典:青空文庫