・・・しかのみならず、この法外の輩が、たがいにその貧困を救助して仁恵を施し、その盗みたる銭物を分つに公平の義を主とし、その先輩の巨魁に仕えて礼をつくし、窃盗を働くに智術をきわめ、会同・離散の時刻に約を違えざる等、その局処についてこれをみれば、仁義・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・我が輩の所見にては我が国教育の仕組はまったくこの旨に違えりといわざるをえず。 試に今日女子の教育を視よ、都鄙一般に流行して、その流行の極、しきりに新奇を好み、山村水落に女子英語学校ありて、生徒の数、常に幾十人ありなどいえるは毎度伝聞する・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
・・・と逆になって居るので不思議だとよくよく見るとどうも三枚の障子があちらこちらにたて違えてあるようであった。これが車上の観察の中で最も精密な観察であると独り誇って居る。 襤褸商人の家の二階の格子窓の前の屋根の上に反古籠が置いてあって、それが・・・ 正岡子規 「車上の春光」
・・・たとい後者なりとも文法学者をして言わしめば文法に違いたりとせん、はたして文法に違えりや、はた韻文の文法も散文のごとくならざるべからざるか、そは大いに研究を要すべき問題なり。余は文法論につきてなお幾多の疑いを存する者なれども、これらの俳句をこ・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ 素朴な云い方をもってすれば、私は、石坂洋次郎氏や横光氏その他の野望的な作家が、プロレタリア文学に対立することで、実はプロレタリア文学を敗北せしめたと全く同じ性質の日本的事情に、形こそ違えやっぱり小股をすくわれていたのだという事実に対し・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・今日は私も、夜昼とり違えでないから気分もよく、かんしゃくも納っています 御注文の辞典類は木村の『和独大辞典』と白水社の『和仏辞典』とがあったので、書店から直接そちらへ送るように送金致しました。『朝日年鑑』と片山の『ドイツ文法辞典』と・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 裏表二手のものどもが入り違えて、おめき叫んで衝いて来る。障子襖は取り払ってあっても、三十畳に足らぬ座敷である。市街戦の惨状が野戦よりはなはだしいと同じ道理で、皿に盛られた百虫の相啖うにもたとえつべく、目も当てられぬありさまである。・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ さて桁を違えて考えてみれば、鳥目二百文をでも、喜助がそれを貯蓄と見て喜んでいるのに無理はない。その心持ちはこっちから察してやることができる。しかしいかに桁を違えて考えてみても、不思議なのは喜助の欲のないこと、足ることを知っていることで・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
・・・もっとはるかにのろのろすべきところであるにもかかわらず、それをすり変えた巧みさは作者の意識の悠々たる落ちつきとは度を違えて周章ている。 しかし、このようなことは、作品の欠点とはならずに、すべて作者の制作中の意識作用から眺めた作品の見方で・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・高田が帰ってからも、梶は、今まで事実無根のことを信じていたのは、高田を信用していた結果多大だと思ったが、それにしても、梶、高田、憲兵たち、それぞれ三様の姿態で栖方を見ているのは、三つの零の置きどころを違えている観察のようだった。 一切が・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫