・・・ 五 死刑は最も忌わしく恐るべき者とせられて居る、然し私には単に死の方法としては、病死其他の不自然と甚だ択ぶ所はない、而して其十分な覚悟を為し得ることと、肉体の苦痛を伴わぬこととは他の死に優るとも劣る所はないかと思う・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・一人の代表者を選ぶならば、例えば Gauss. g、a、u、ssです。急激に、どんどん変化している時代を過渡期というならば、現代などは、まさに大過渡期であります。」てんで、物語にもなんにもなってやしない。それでも末弟は、得意である。調子が出・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・れに拠っていよいよ人生観察も深くなり、その作品も、所謂、底光りして来るようにも思われますが、現実は、必ずしもそうでは無いらしく、かえって、怒りも、憧れも、歓びも失い、どうでもいいという白痴の生きかたを選ぶものらしく、この芸術家も、あれ以来と・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・馬を稽古する人が上達するに従ってだんだん荒い馬を選ぶようになる心理もいくらかわかったような気がする。何よりも荒馬のいきり立って躍り上がる姿にはたとえるもののない「意気」の美しさが見られるのである。 この映画の「筋」はわりにあっさりしてい・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・それでこの二つの映画を見せて、そのいずれを選ぶかによって観客の定型を二つに分けることもできそうである。解析型と直観型あるいは構成派と印象派といったような二つに分けられはしないか。そう簡単にはゆかないまでも、少なくもこういうふうに考えてみるこ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・しかしそういう適当な休み場所がまだ出来なかった去年頃まで、自分は友達を待ち合わしたり、あるいは散歩の疲れた足を休めたり、または単に往来の人の混雑を眺めるためには、新橋停車場内の待合所を択ぶがよいと思っていた。 その頃には銀座界隈には、己・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・悉く照らして択ぶ所なければシャロットの女の眼に映るものもまた限りなく多い。ただ影なれば写りては消え、消えては写る。鏡のうちに永く停まる事は天に懸る日といえども難い。活ける世の影なればかく果敢なきか、あるいは活ける世が影なるかとシャロットの女・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・ 美的にせよ、突兀的にせよ、飄逸的にせよ、皆吾人の物の関係を味う時の味い方で、そのいずれを選ぶかは文芸家の理想できまるべき問題でありますから、分化の結果理想が殖えれば、どこまで割れて行くか分りません。しかしいくら割れても、ここに云う理想・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・単に不可知的なるものは、無と択ぶ所はない。自己は単なる無か。自己を不可知的というものは、何物か。対象的に知ることのできない自己は、最も能く自己に知れたものでなければならない。一方に我々は自己が自己自身を知ると考える、かかる意味において知ると・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・道を歩く時にも、手を一つ動かす時にも、物を飲食する時にも、考えごとをする時にも、着物の柄を選ぶ時にも、常に町の空気と調和し、周囲との対比や均斉を失わないよう、デリケートな注意をせねばならない。町全体が一つの薄い玻璃で構成されてる、危険な毀れ・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
出典:青空文庫