・・・ スチクレスタードの野の戦の始まる前に、王は部下の将卒の団欒の中で、フィン・アルネソンのひざを枕にしてうたた寝をする。敵軍が近寄るのでフィンが呼びさますと、「もう少し夢のつづきを見せてくれればよかったのに」と言ってその夢の話をして聞かせ・・・ 寺田寅彦 「春寒」
・・・お前は前途有望だから、残って部下の訓練に精を出してくれなくちゃ困ると、まあ然ういう命令なんだ。 秋山大尉は残念でならねえ。○○師団のところへ掛合行きも行った。五度も行って縋った。○○師団長も終に怒った。軍隊の命令は、総て、天皇陛下のお言・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・伝え聞く、箱館の五稜郭開城のとき、総督榎本氏より部下に内意を伝えて共に降参せんことを勧告せしに、一部分の人はこれを聞て大に怒り、元来今回の挙は戦勝を期したるにあらず、ただ武門の習として一死以て二百五十年の恩に報るのみ、総督もし生を欲せば出で・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・烏の大尉の部下が十八隻、順々に飛びあがって大尉に続いてきちんと間隔をとって進みました。 それから戦闘艦隊が三十二隻、次々に出発し、その次に大監督の大艦長が厳かに舞いあがりました。 そのときはもうまっ先の烏の大尉は、四へんほど空で螺旋・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・とその沢山の可愛らしい部下とが又出て来て、庭に抛り出されたあのおみやげの藁の苞を、かさかさ引いた、たしかにその音がしたとみんながさっきも話していました。 宮沢賢治 「とっこべとら子」
・・・「私どもはあなたの部下です。判事や検事やなんかです。」「そうですか。それでは私はここの主人ですね。」「さようでございます。」 こんなような訳でペンネンネンネンネン・ネネムは一ぺんに世界裁判長になって、みんなに囲まれて裁判長室・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・噴火係の職をはがれ、その火山灰の土壌を耕す。部下みな従う。七、ノルデは頭からすっかり灰をかぶってしまった。 サンムトリの噴火。ノルデ海岸でつかれてねむる。ナスタ現わる。夢のなかでうたう。八、ノルデは野原にいくつも茶いろなトランプ・・・ 宮沢賢治 「ペンネンノルデはいまはいないよ 太陽にできた黒い棘をとりに行ったよ」
・・・ところがそれをだしにして、わたくしのある部下のものがわたくしを脅迫しました。あの晩はじつに六ヵしい場合でした。あすこに来ていたのはみんな株主でした。わざとあすこをえらんだのです。ところが株主の反感は非常だったのです。わたくしももうやけくそに・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・、「部下への思いやりに苦しむ」という記事は、下山氏の人間ぽさを、わたしたちに感じさせた。まして国鉄本省にあらわれた下山氏がとりみだしていたという姿は、一日に千余通送られていた人民の哀訴の手紙と、権力に奉仕する官僚としての板ばさみの立場に苦し・・・ 宮本百合子 「「推理小説」」
・・・小林多喜二を拷問で殺したのも、安倍源基とその部下の仕事です。岩田義道を殺したのも、上田茂樹をとうとう行方不明のままほうむり去ってしまったのも、彼の立身の一段でした。その頃非合法におかれていた共産党の中央委員のなかに、大泉兼蔵、小畑某というス・・・ 宮本百合子 「ファシズムは生きている」
出典:青空文庫