・・・快活、憂鬱、謹厳、戯謔さまざまの心持が簡単な線の配合によって一幅の絵の中に自由に現われていると思うのである。 津田君の絵には、どのような軽快な種類のものでも一種の重々しいところがある。戯れに描いた漫画風のものにまでもそういう気分が現われ・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・厳父の厳と慈母の慈との配合よろしきを得た国がらにのみ人間の最高文化が発達する見込みがあるであろう。 地殻的構造の複雑なことはまた地殻の包蔵する鉱産物の多様と豊富を意味するが、同時にまたある特殊な鉱産物に注目するときはその産出額の物足りな・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・清親の風景板画に雪中の池を描いて之に妓を配合せしめたのも蓋偶然ではない。 上野の始て公園地となされたのは看雨隠士なる人の著した東京地理沿革誌に従えば明治六年某月である。明治十年に至って始て内国勧業博覧会がこの公園に開催せられた。当時上野・・・ 永井荷風 「上野」
・・・そこへ行くと、江戸の浮世絵師は便所と女とを配合して、巧みなる冒険に成功しているのではないか。細帯しどけなき寝衣姿の女が、懐紙を口に銜て、例の艶かしい立膝ながらに手水鉢の柄杓から水を汲んで手先を洗っていると、その傍に置いた寝屋の雪洞の光は、こ・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・紺と黒と柿色の配合が、全体に色のない場末の町とて殊更強く人目を牽く。自分は深川に名高い不動の社であると、直様思返してその方へ曲った。 細い溝にかかった石橋を前にして、「内陣、新吉原講」と金字で書いた鉄門をはいると、真直な敷石道の左右に並・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・幸にしてオセロは事件の綜合と人格の発展が非常にうまく配合されて自然と悲劇に運び去る手際がある。読者はそれを見ればいい。日本の芝居の仕組は支離滅裂である。馬鹿馬鹿しい。結構とか性格とか云う点からあれを見たならば抱腹するのが多いだろう。しかし幕・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・どうかしてこの込み入った画の配合や人間の立ち廻りを鷲抓みに引っくるめてその特色を最も簡明な形式で頭へ入れたいについてはすでに幼稚な頭の中に幾分でも髣髴できる倫理上の二大性質――善か悪かを取りきめてこの錯雑した光景を締め括りたい希望からこうい・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・換言すれば感覚的なる自然と感覚的なる人間そのものの色合やら、線の配合やら、大小やら、比例やら、質の軟硬やら、光線の反射具合やら、彼らの有する音声やら、すべてこれらの感覚的なるものに対して趣味、すなわち好悪、すなわち情、を有しております。だか・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・益たるを知り、双方共にさらりと前世界の古証文に墨を引き、今後期するところは士族に固有する品行の美なるものを存して益これを養い、物を費すの古吾を変じて物を造るの今吾となし、恰も商工の働を取て士族の精神に配合し、心身共に独立して日本国中文明の魁・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・この薬剤にして、よくこの効を奏すべきか、もしも然らしめんとするには、まずこの薬に配合するに他の薬物をもってし、その性質を変化せしむることなれば、徐々たる滋潤強壮の効力は失い尽さざるをえず。 すなわち教育緩慢の働を変じて急劇となし、十年二・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
出典:青空文庫