・・・結局彼は人間の精神的要求が完全し満足される環境を、物質価値の内容、配当、および使用の更正によって準備しうると固く信じていた人であって、精神的生活は唯物的変化の所産であるにすぎないから、価値的に見てあまり重きをおくべき性質のものではないと観じ・・・ 有島武郎 「想片」
・・・走では、人気馬が三頭も同じ障碍で重なるように落馬し、騎手がその場で絶命するという騒ぎの隙をねらって、腐り厩舎の腐り馬と嗤われていた馬が見習騎手の鞭にペタペタ尻をしばかれながらゴールインして単複二百円の配当、馬主も騎手も諦めて単式はほかの馬に・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・ヤマカン会社で、地方のなにも知らん慾ばりの爺さんどもを、一カ年五割の配当をすると釣って金を出させ、そいつをかき集めて、使いこんで行くというやり方だった。ジメ/\した田の上に家を建てゝ、そいつを貸したり、荷馬車屋の親方のようなことをやったり、・・・ 黒島伝治 「自伝」
・・・「満鉄がどれだけ配当をしたって、株を持たん俺れらにゃ、一文も呉れやしねえからな。」 特務曹長に、兵卒の思想についても気を配るように云い含められてきている深山軍曹は、話をほかへ持って行こうとした。「よせ、よせ。そんなことは。」彼は・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・電燈会社が一割の配当をつゞけるため、燃料で誤魔化しをやっているのだった。 芝居小屋へ活動写真がかゝると、その電燈は息をした。 ふいに、強力な電燈を芝居小屋へ奪われて、家々の電燈は、スッと消えそうに暗くなった。映写がやまると、今度は、・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・末の冬子は線香花火や千代紙やこまごました品を少しずつしか買わないので、配当されたわずかな金が割合に長く使いでがあるようであった。そういう事実は多少小さな姉や兄の注意をひいているらしかった。 学校へ出ている子等は毎朝復習をしていた。まだ幼・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・今もしこの三つの能力が測定の可能な量であると仮定すれば、LSKの三つのものを座標として、三次元の八分一空間を考え、その空間の中の種々の領域に種々の科学者を配当する事ができるであろう。 ヘルムホルツや、ケルヴィンやレイノルズのごときはLS・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・各箇人としては充分に資料も持って居るのに、其を集めて博物館とする迄に到らない原因、確に永山氏の説かれる通り、長崎人の伝統的な気質――会所からの配当金で楽々生活して居た時代から、あくせく知らず――が重大な関係をもって居るだろう。その上、長崎人・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・「当院が今日の如く隆盛におもむいた以上さらに有料寝台を増して、その利益配当を最初犠牲的社会奉仕をしたX嬢その他出資者に分つのが最も合理的な感謝手段であると思惟す」と。 もっとも決議に出資者らが何と答えたかは出ていない。出資婦人達はオスワ・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫