・・・人生の身体とその精神と、いずれをも軽しとしまた重しとすべからざるはいうまでもなきことにして、今内行の不取締は、人倫の大本を破りて先ず精神を腐敗せしむるものなり。身体を犯すの病毒はこれを恐るること非常にして、精神を腐敗せしむるの不品行は、世間・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・この位置は打者の球の多く通過する道筋なるをもって特にこの役を置く者にして短遮の任また重し。第一基は走者を除外ならしむるにもっとも適せる地なり。短遮等より投げたる球を攫み得て第一基を踏むこと(もしくは身体の一部を触走者より早くば走者は除外とな・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・は、翻る赤旗とともに、すべてこういうプロレタリア、農民への重石をはねのけ、猛然と文盲撲滅をはじめた。工場の中、兵営の中、農村、町、ソヴェトの中、教会の中をもいとわず、共産青年同盟員やピオニェールが、アルファベットのカードをこしらえて、七十の・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・プロレタリア・農民婦人の文化水準は敵のブルジョア・地主的反動文化の重しで、低く圧せられたままに放置されているのを見る。而もわれわれが猛烈に、決然と、婦人大衆を低く繋ぐ反動文化と戦闘を開始しないことは、とりもなおさず日本におけるプロレタリア文・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・大衆の人間的苦悩、時代の重しを感じ、それらの重みを欲していない心持の身じろぎを捕える芸術の社会性、そのような今日の顕著な人間性のリアリティーをもち得なくなったことから、従来の一部の作家が文学の大衆化を叫び出し、しかも大衆というものの誤った理・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・明治元年に生れた日本の男という、その時代が彼にたたきこんだ封建のぬけきらない、儒教の重しがのき切らない一生活人の脈搏が漱石の全作品を貫いて苦しく打っているのが感じられる。男対女の相剋を、漱石は「兄」などの中にあれほど執拗に追究していながら、・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・家族制度の重しの下で、藤村の文学にあらわれているように、「家」の探求やせまい家族関係の中での「自分」の主張におわらせた。こうして日本の私小説は悲しい誕生をつげた。 ヒューマニズムも白樺の代表者である武者小路実篤の「人類」観を見ても、どん・・・ 宮本百合子 「自我の足かせ」
・・・過去十数年に亙った政府の精神圧殺方針に対して堅い内部抵抗の力を保っていて、今日、将に、その重石がとれ、生新溌剌な圧力の高い迸りを見せている部分も、明らかに存在している。だがこの節の一般文化面を見わたしたとき、私たちの率直な感想は、どうだろう・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・そこで私は、目をつぶる様にしてぴったりと其処を押えつけて、本を重しにかって置いた。 けれ共、間もなく振返って見ると、パクーンと又口を開いて居る。 これではどうもたまらない。 私の強さは、もうちょんびりぼっちほか残って居ない様な、・・・ 宮本百合子 「盗難」
・・・旧来の結婚の形式が偽善と心ならぬ犠牲、真実の愛の感情さえ殺すような重しを女にかけることに抗議する心持の上で、この二人は全く同腹の姉妹である。けれども年上であり、成熟した女性であるアンネットの肉体と精神との中には、既に感覚として、自覚される欲・・・ 宮本百合子 「未開の花」
出典:青空文庫