・・・父母たる者の義務として遁れられぬ役目なれども、独り女子に限りて其教訓を重んずるとは抑も立論の根拠を誤りたるものと言う可し。世間或は説あり、父母の教訓は子供の為めに良薬の如し、苟も其教の趣意にして美なれば、女子の方に重くして男子の方を次ぎにす・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・世間の交際を重んずるの名を以て、附合の機に乗ずれば一擲千金もまた愛しまず。官用にもせよ商用にもせよ、すべて戸外公共の事に忙しくして家内を顧みるに遑あらず。外には活溌にして内には懶惰、台所の有様を知らず、玄関の事情を知らず、子供の何を喰らい何・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・、その盗みたる銭物を分つに公平の義を主とし、その先輩の巨魁に仕えて礼をつくし、窃盗を働くに智術をきわめ、会同・離散の時刻に約を違えざる等、その局処についてこれをみれば、仁義礼智信を守りて一社会の幸福を重んずる者の如し。ゆえに平安の主義は、法・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・ 我が慶応義塾の教育法は、学生諸氏もすでに知る如く、創立のその時より実学を勉め、西洋文明の学問を主として、その真理原則を重んずることはなはだしく、この点においては一毫の猶予を仮さず、無理無則、これ我が敵なりとて、あたかも天下の公衆を相手・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・文を重んずるもまた然り、芸を好むもまた然り。 ゆえに社会の気風は家人を教え朋友を教え、また学校を教うるものにして、この点より見れば天下は一場の大学校にして、諸学校の学校というも可なり。この大学校中に生々する人の心の変化進歩するの様を見る・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・とて、自国を重んずるの念、はなはだ薄きに似たれども、かつて譏を受けたることなきのみならず、かえって聖人の賛誉を得たり。これに反して日本においては士人の去就はなはだ厳なり。「忠臣二君に仕えず、貞婦両夫に見えず」とは、ほとんど下等社会にまで通用・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・等の語さえあれば、私徳の要ももとより重んずるところなりと説を作すも、本書をもって学校の教科書となすにおいては、なお不可なるものあり。 およそ徳教の書は、古聖賢の手になり、またその門に出でしものにして、主義のいかんにかかわらず、天下後世の・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・孝行は人生の徳義の中にて至極大切なるものにして、我輩も固より重んずる所のものなりといえども、世界開闢生々の順序においても、先ず夫婦を成して然る後に親子あることなれば、孝徳は第二に起こりたるものにして、これに先だつに夫婦の徳義あるを忘るべから・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・その口に説くところを聞けば主公の安危または外交の利害などいうといえども、その心術の底を叩てこれを極むるときは彼の哲学流の一種にして、人事国事に瘠我慢は無益なりとて、古来日本国の上流社会にもっとも重んずるところの一大主義を曖昧糢糊の間に瞞着し・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・そして婦人に対して作者は道徳よりも道理を重んずることを求めている。このときに到っても、やはり葉子の中にあって彼女を一層混乱させ、非条理に陥らせている封建的な道徳感への屈伏を作者は抉り出すことに成功してはいないのである。 葉子の恋愛の描写・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
出典:青空文庫