・・・そこへ警戒中の巡査も駈けつけ、直ちに狼を銃殺した。この狼はルプス・ジガンティクスと称し、最も兇猛な種属であると云う。なお宮城動物園主は狼の銃殺を不当とし、小田原署長を相手どった告訴を起すといきまいている。等、等、等。五 ある・・・ 芥川竜之介 「白」
・・・ 兵士達は、銃殺を恐れて自分の意見を引っこめてしまった。近松少佐は思うままにすべての部下を威嚇した。兵卒は無い力まで搾って遮二無二にロシア人をめがけて突撃した。――ロシア人を殺しに行くか、自分が×××るか、その二つしか彼等には道はないの・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・それは脱営になって、脱営は戦時では銃殺に処せられることになっていた。だがそれを内密にすましてその男は処罰されることからは免れた。しかし、その代りとして、四年兵になるまで残しておかれるだろうとは、自他ともに覚悟をしていた。 だが、その男も・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・それから銃殺にきまっている。」間、兵卒一同再び倒る。曹長(面「上官。私は決心いたしました。この饑餓陣営の中に於きましては最早私共の運命は定まってあります。戦争の為にでなく飢餓の為に全滅するばかりであります。かの巨大なるバナナン軍団のただ・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・ その時六、七名から十二名におよぶ女子供を銃殺した人達が復員しているという記事が問題となっていました。その中の一人である教員が、もしあの当時、“降伏”という言葉が日本にあったならば、ああいうことを誰がしたろうと語っていました。 日本・・・ 宮本百合子 「講和問題について」
・・・ドストイェフスキイは、ロシアの革命運動に参加した理由で死刑を宣告された。銃殺されようとするその瞬間に特使が来て彼は死なずに済んだ。然しこの一つの経験はドストイェフスキイの生涯を替えたのであった。 戦争前の私達と、済んだ後の私達と決して同・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・九人の労働者が指導者として銃殺された。しかし、このことから、バクーの労働者の間に革命の伝統が生じ一九〇八年――一一年の反動時代にはかくれた大きい役割を果すことになったのであった。この時代の活々とした興味と教訓にとんだ回想の集められてあるのが・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・ その日のために、ロシアのプロレタリアートと農民は、監獄、銃殺、流刑と、あらゆる迫害を徹して闘い抜き、遂に一九一七年十一月七日、働く者の国、プロレタリア独裁のソヴェト政権を確立したのです。 この地球はじめての人間らしい憲法がきめられ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の婦人と選挙」
・・・もし戦争が敗けたとすれば、その日のうちに銃殺されることも必定である。もし勝ったとしても、用がすめば、そんな危険な人物を人は生かして置くものだろうか。いや、危い。と梶はまた思った。この危険から身を防ぐためには――梶はその方法をも考えてみたが、・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫