・・・ 坂を下りて提灯が見えなくなると熊手持って帰る人が頻りに目につくから、どんな奴が熊手なんか買うか試に人相を鑑定してやろうと思うて居ると、向うから馬鹿に大きな熊手をさしあげて威張ってる奴がやって来た。職人であろうか、しかし善く分らぬ。月が・・・ 正岡子規 「熊手と提灯」
・・・――或る日、子供は畑から青紫蘇の芽生えに違いないと鑑定をつけた草を十二本抜いて来た。それから、その空地のちょうど真中ほどの場所を選んで十二の穴を掘った。十二の穴がちゃんと同じような間を置いて、縦に三つ、横に四側並ぶようにと、どんなに熱心に竹・・・ 宮本百合子 「雨と子供」
・・・林学専門なら山がよく鑑定されるわけだろう。その直接間接の売買は、現在の経済の組立ての中では金銭上の富を意味している。どんな樹木の山はいい価で利益もある。というなら同じ卑俗さにしろわかりもするが、その現実はふせて、炭の空俵一俵でどれだけ米を炊・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
・・・そして、冗談と十分対手に分らせた物々しさで、「どうだい、ひとつ多喜子さんに僕たちが何に見えるか鑑定していただこうじゃないか」と云い出した。「何に見えるって――何なの?」 桃子の顔を見ると、桃子は火鉢のふちへもたれかかって妙に・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・そのことをぺてん師の鑑定家の爺と番頭とがあくどく揶揄した。「さて、学問のあるお前のことだ。この問題を噛み分けて見な。ここに、千人の裸坊主がいる。五百人が女で、五百人が男だ。この中にアダムとエヴァがいるが、お前はどこで見分けるかい?」・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 自分は、貴方の鑑定に信頼するから、どうぞ襖だけは気をつけて下さいと頼んだ。 自分にとって、あの赧黄色い地に、黒でこまこまと唐草の描いてある唐紙ほど、いやなものはない。新らしい家ではとも角、古び、木の黒光るような小家に、あの襖が閉っ・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・どの舟もどの舟も、載せられるだけ大勢の人を載せて来たので、お酌の小さい雪蹈なぞは見附かっても、客の多数の穿いて来た、世間並の駒下駄は、鑑定が容易に附かない。真面目な人が跣足で下りて、あれかこれかと捜しているうちに、無頓着な人は好い加減なのを・・・ 森鴎外 「百物語」
・・・ 己の鑑定では五十歳位に見える。 下宿には大きい庭があって、それがすぐに海に接している。カツテガツトの波が岸を打っている。そこを散歩して、己は小さい丘の上に、樅の木で囲まれた低い小屋のあるのを発見した。木立が、何か秘密を掩い蔽すよう・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫