・・・――今日出仕を終ってから、修理は、白帷子に長上下のままで、西丸の佐渡守を訪れた。見た所、顔色もすぐれないようだから、あるいはまだ快癒がはかばかしくないのかと思ったが、話して見ると、格別、病人らしい容子もない。そこで安心して、暫く世間話をして・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・ 藍の長上下、黄の熨斗目、小刀をたしなみ、持扇で、舞台で名のった――脊の低い、肩の四角な、堅くなったか、癇のせいか、首のやや傾いだアドである。「――某が屋敷に、当年はじめて、何とも知れぬくさびらが生えた――ひたもの取って捨つれど・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・馬廻以上は長上下、徒士は半上下である。下々の者は御香奠を拝領する。 儀式はとどこおりなく済んだが、その間にただ一つの珍事が出来した。それは阿部権兵衛が殉死者遺族の一人として、席順によって妙解院殿の位牌の前に進んだとき、焼香をして退きしな・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫