・・・いやな事と云うものは、する時間が長引くだけいやになるからである。午頃になって、一寸町へ出た。何か少し食って、黒ビイルを一杯引っ掛けて帰って、また書いている。 ようよう銀行員の来る前に書いてしまった。右の腕を、虚空を斫るように、猛烈に二三・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・彼は兄の病臥している山の事務所を引き揚げて、その時K市のステーションへ著いたばかりであったが、旅行先から急電によって、兄の見舞いに来たので、ほんの一二枚の著替えしかもっていなかったところから、病気が長引くとみて、必要なものだけひと鞄東京の宅・・・ 徳田秋声 「挿話」
出典:青空文庫