・・・ すでにいいかげん閑文字を羅列したことを恥じる。私は当分この問題に関しては物をいうまいと思っている。 有島武郎 「想片」
・・・ 小説や風聞録のようないわゆる閑文字について言われる事は、実は大多数の読者にとって、他の大部分のいわゆる重要記事についても言われるのである。多くの読者が社会記事や政治欄を読む心持ちが小説その他の閑文字を読む心持ちと根本的にどれだけ違・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
十六、七のころ、わたくしは病のために一時学業を廃したことがあった。もしこの事がなかったなら、わたくしは今日のように、老に至るまで閑文字を弄ぶが如き遊惰の身とはならず、一家の主人ともなり親ともなって、人間並の一生涯を送ること・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
・・・と云って大した弱点を見てくれと云わんばかりに書く訳でもないが、とにかくこっちから頼みはしないので、先方から勝手に寄こすくらいの酔興的な閑文字すなわち一種の意味における芸術品なのだから、もし我々の若い時分の気持で書くとすれば、天下の英雄君と我・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
出典:青空文庫