・・・私は、日本一の陋劣な青年になっていた。十円、二十円の金を借りに、東京へ出て来るのである。雑誌社の編輯員の面前で、泣いてしまった事もある。あまり執拗くたのんで編輯員に呶鳴られた事もある。その頃は、私の原稿も、少しは金になる可能性があったのであ・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・死ねば天堂へ行かれる、未来は雨蛙といっしょに蓮の葉に往生ができるから、この世で善行をしようという下卑た考と一般の論法で、それよりもなお一層陋劣な考だ。国を立つ前五六年の間にはこんな下等な考は起さなかった。ただ現在に活動しただ現在に義務をつく・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・この哀れな私の同胞に対して、今まで此室に入って来た者共が、どんな残忍なことをしたか、どんな陋劣な恥ずべき行をしたか、それを聞こうとした。そしてそれ等の振舞が呪わるべきであることを語って、私は自分の善良なる性質を示して彼女に誇りたかった。・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・精神のラッシュにまぎれて、いかがわしい種々の操作が、今日では法律上の名目も失い、行政上の格式も失いながら、なお最下等動物のように執拗に、ぬけめない陋劣さで活躍していることも、人々が直感しているところである。 日本にとって、本当にすがすが・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・は、よくその陋劣な欺瞞を粉砕するものである。 長篇の一部故、次回にどう発展するか待たなければならない。四月号に発表された部分についてだけ云うと、主人公である前衛が大工場の職場を弾圧によって失ってからの経過が大部分を占めている。前衛が・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
出典:青空文庫