・・・ドイツ語でホオフナルと云うのだ。陛下の倡優を以て遇する所か。」 秀麿は覚えず噴き出した。「僕がそんな侮辱的な考をするものか。」「そんなら頭からけんつくなんぞを食わせないが好い。」「うん。僕が悪かった。」秀麿は葉巻の箱の蓋を開けて・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・「されどこの一件のことはファブリイス夫人こころに秘めて族にだに知らせたまわず、女官の闕員あればしばしの務めにとて呼び寄せ、陛下のおん望みもだしがたしとてついにとどめられぬ」「うき世の波にただよわされて泳ぐ術知らぬメエルハイムがごとき・・・ 森鴎外 「文づかい」
・・・「それは陛下が一番よく御存知でございましょう」「いや、余よりもよく知っている奴がいそうに思う」「何者でございます」 ナポレオンは答の代りに、いきなりネーのバンドの留金がチョッキの下から、きらきらと夕映に輝く程強く彼の肩を揺す・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・それには、ただ今天皇陛下から拝謁の御沙汰があって参内して来ましたばかりです。涙が流れて私は何も申し上げられませんでしたが、私に代って東大総長がみなお答えして下さいました。近日中御報告に是非御伺いしたいと思っております。とそれだけ書いてあった・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫