・・・美男子ではないが血色もよく、謂わば陽性の顔である。津島さんと話をしておれば苦労を忘れると、配給係りの老嬢が言った事があるそうだ。二十四歳で結婚し、長女は六歳、その次のは男の子で三歳。家族は、この二人の子供と妻と、それから、彼の老母と、彼と、・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・うが如く、往古蒙昧の世に無智無学の蛮民等が、其目に触れ心に感ずる所を何の根拠もなく二様に区別して、之に附するに漠然たる陰陽の名を以てしたるまでのことにして、人間の男女も端なく其名籍の中に計えられ、男は陽性、女は陰性と、勝手次第に鑑定せられた・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・被告が、腹の下に両手をくみ合わせ、やや頭を左に傾けた下眼づかいに正座している当日の彼の写真は、全身の抑制された内向的な表情によっても、同じベンチに並んでいる他の被告たちの動的で、いくらか亢奮した反応が陽性にあらわれている様子とは、おのずから・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・喋っても、癇癪を起しても陽性でした。いつも活気があり、流動があり、些の感傷と常套もあって、父は親密な温い父でした。 私が九つか十位から十年間ばかり、私がまだ父と一緒の家に暮していた間、朝父の出がけの身仕度をするのが私の楽しい任務でした。・・・ 宮本百合子 「父の手帳」
・・・田舎暮しからみたら東京の生活は比較にならないほどいい、と云われる言葉は、都会の空気に代々馴れて、結核なども陽性反応を示す体質になっている人々の放言である。 勤労青少年たちの体はよくない。中国地方の或る工業地帯が故郷である若い人が、この間・・・ 宮本百合子 「若きいのちを」
出典:青空文庫