・・・けれど、階梯として何うしても児童等は嫌いなものも、好きなものと、同時に強いられる教育状態にある。私は、これ等の学校を卒業して、社会へ子供達が出た時に、学校生活がどれだけ役立ち、また、彼等を幸福ならしむるかと考えさせられるのであるが、これなど・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
・・・――こうした発見は都会から不意に山間へ行ったものの闇を知る第一階梯である。 私は好んで闇のなかへ出かけた。溪ぎわの大きな椎の木の下に立って遠い街道の孤独の電燈を眺めた。深い闇のなかから遠い小さな光を跳めるほど感傷的なものはないだろう。私・・・ 梶井基次郎 「闇の絵巻」
・・・「物理階梯」などが科学への最初の興味を注入してくれた。「地理初歩」という薄っぺらな本を夜学で教わった。その夜学というのが当時盛んであった政社の一つであったので、時々そういう社の示威運動のようなものが行なわれ、おおぜいで提灯をつけて夜の町を駆・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・連想で呼び出される第一影像はただ一つの可能な付け句の暗示に過ぎないので、それだけでは決して付け句は成立しない、この第一影像を一つの階梯として洗練に洗練を重ねた上で付け句ができあがるべきはずである。 そういう階段としてはその連想がいかに突・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・明治四十三年八月の水害と、翌年四月の大火とは遊里とその周囲の町の光景とを変じて、次第に今日の如き特徴なき陋巷に化せしむる階梯をつくった。世の文学雑誌を見るも遊里を描いた小説にして、当年の傑作に匹疇すべきものは全くその跡を断つに至った。 ・・・ 永井荷風 「里の今昔」
・・・それは一階梯にすぎず殿堂そのものではない。 この事実は、芸術家の大きい魂の真実にふれている、常に自己を超えようとする本能的な焦慮 ○限界の突破 そして、このことは平安を彼から奪うことを予約している。しかも 彼が芸術家・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・今日すでにその階梯が、対立する二つの作家団の日常の文学的行動にあらわれている客観的事実だ。〔一九三一年五月〕 宮本百合子 「文壇はどうなる」
・・・然しそれを見越しても、その時にはその時必然の階梯を、みっしり踏んで置くことは大切と思うのです。 私は、これ等の貧しい内省の裡から決して、一般的な訓戒や警告を抽き出そうとは思いません。多くの若い婦人は、決して、私ほど甘えて人生を見てはいら・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
出典:青空文庫