・・・ 灯がその火屋の中にともるとキラキラと光るニッケル唐草の円いランプがあって、母は留守の父のテーブルの上にそのランプを明々とつけ、その上で雁皮紙を詠草のよう横に折った上へ、細筆でよく手紙を書いた。白い西洋封筒は軽い薄い雁皮の紙ながら、ふっ・・・ 宮本百合子 「父の手紙」
・・・その下で、雁皮紙を横綴にしたものへ、真書き筆で、こまごまと父への手紙をかく。雁皮紙は何枚も厚く重ねてこよりでとじられた。六歳である私は、そのデスクにやっと顎をのせるほどの背たけに成長している。母は、おかっぱの私の右手に筆を持たせ、我手をもち・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・ 御ひるっから二時頃までは何やら彼やらと下らない事を云ってすごしてしまったので大あわてにあわてて墨をすり筆の穂をつくろって徳川時代を書いた古風な雁皮紙とじたのと風俗史と二年の時の歴史の本と工芸資料をひっぱり出す。 この徳川時代をひっ・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・気に入った絵があると、母は、雁皮紙をその上にのせ、丁寧にしきうつしをして、後から色だけを自分のこのみに従って塗っていた。 上野の美術学校へ入って洋画を習いたいとロンドンにいる父に相談してやったら、父はそれに不賛成であったというのもこの時・・・ 宮本百合子 「母」
出典:青空文庫