・・・オルガンは内部の見えるように側面の板だけはずしてあり、そのまた内部には青竹の筒が何本も竪に並んでいた。僕はこれを見た時にも、「なるほど、竹筒でも好いはずだ」と思った。それから――いつか僕の家の門の前に佇んでいた。 古いくぐり門や黒塀は少・・・ 芥川竜之介 「死後」
・・・ 鉄冠子はそこにあった青竹を一本拾い上げると、口の中に咒文を唱えながら、杜子春と一しょにその竹へ、馬にでも乗るように跨りました。すると不思議ではありませんか。竹杖は忽ち竜のように、勢よく大空へ舞い上って、晴れ渡った春の夕空を峨眉山の方角・・・ 芥川竜之介 「杜子春」
・・・ 前に青竹の埒を結廻して、その筵の上に、大形の古革鞄ただ一個……みまわしても視めても、雨上りの湿気た地へ、藁の散ばった他に何にも無い。 中へ何を入れたか、だふりとして、ずしりと重量を溢まして、筵の上に仇光りの陰気な光沢を持った鼠色の・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・町内の杢若どのは、古筵の両端へ、笹の葉ぐるみ青竹を立てて、縄を渡したのに、幾つも蜘蛛の巣を引搦ませて、商売をはじめた。まじまじと控えた、が、そうした鼻の頭の赤いのだからこそ可けれ、嘴の黒い烏だと、そのままの流灌頂。で、お宗旨違の神社の境内、・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・そんで、へい、苧殻か、青竹の杖でもつくか、と聞くと、それは、ついてもつかいでも、のう、もう一度、明神様の森へ走って、旦那が傍に居ようと、居まいと、その若い婦女の死骸を、蓑の下へ、膚づけに負いまして、また早や急いで帰れ、と少し早めに糸車を廻わ・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・ 三声を続けて鳴いたと思うと……雪をかついだ、太く逞しい、しかし痩せた、一頭の和犬、むく犬の、耳の青竹をそいだように立ったのが、吹雪の滝を、上の峰から、一直線に飛下りたごとく思われます。たちまち私の傍を近々と横ぎって、左右に雪の白泡を、・・・ 泉鏡花 「雪霊続記」
・・・「あれを青竹一本で渡したんですが、丈といい、その見事さ、かこみの太さといっちゃあない。――俗に、豆狸は竹の子の根に籠るの、くだ狐は竹筒の中で持運ぶのと言うんですが、燈心で釣をするような、嘘ばっかり。出も、入りも出来るものか、と思っていま・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・ 女は、青竹のつえをついて、山を上りはじめました。やがて、峠に達しますと、そこに三人の男が立って待っていました。三人は、自分たちの待っている女が、この一人の女であるということを知りませんでした。三人は、女を見ると、「おまえのくるのを・・・ 小川未明 「ちょうと三つの石」
・・・其方で木戸を丈夫に造り、開閉を厳重にするという条件であったが、植木屋は其処らの籔から青竹を切って来て、これに杉の葉など交ぜ加えて無細工の木戸を造くって了った。出来上ったのを見てお徳は「これが木戸だろうか、掛金は何処に在るの。こんな木戸な・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・ほら、太い青竹なぞを杖について……」「そこから、君、この食堂が生れて来たようなものだよ」 と言って見せて広瀬さんも笑った。「でも、御隠居さんが今度出て来て下すって、ほんとに私はうれしい」とお力は半分独りごとのように、「私のような・・・ 島崎藤村 「食堂」
出典:青空文庫