・・・「鞦韆を拵えてお遣んなさい。」 邸の庭が広いから、直ぐにここへ気がついた。私たちは思いも寄らなかった。糸で杉箸を結えて、その萩の枝に釣った。……この趣を乗気で饒舌ると、雀の興行をするようだから見合わせる。が、鞦韆に乗って、瓢箪ぶっく・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・動物園は休みと見えて門が締まっているようであったから博物館の方へそれて杉林の中へ這入った。鞦韆に四、五人子供が集まって騒いでいる。ふり返って見ると動物園の門に田舎者らしい老人と小僧と見えるのが立って掛札を見ている。其処へ美術学校の方から車が・・・ 寺田寅彦 「根岸庵を訪う記」
・・・女優の鞦韆も下からのぞこう。沙翁劇も見よう。洋楽入りの長唄も聞こう。頼まれれば小説も書こう。粗悪な紙に誤植だらけの印刷も結構至極と喜ぼう。それに対する粗忽干万なジゥルナリズムの批評も聞こう。同業者の誼みにあんまり黙っていても悪いようなら議論・・・ 永井荷風 「妾宅」
出典:青空文庫