・・・が、話の順序として、その前に一通り、彼の細君の人物を御話しして置く必要がありましょう。「私が始めて三浦の細君に会ったのは、京城から帰って間もなく、彼の大川端の屋敷へ招かれて、一夕の饗応に預った時の事です。聞けば細君はかれこれ三浦と同年配・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・道人はすぐに筆を執って、巻紙にその順序を写した。 銭を擲げては陰陽を定める、――それがちょうど六度続いた。お蓮はその穴銭の順序へ、心配そうな眼を注いでいた。「さて――と。」 擲銭が終った時、老人は巻紙を眺めたまま、しばらくはただ・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・昔から士農工商というが、あれは誠と嘘との使いわけの程度によって、順序を立てたので、仕事の性質がそうなっているのだ。ちょっと見るとなんでもないようだが、古人の考えにはおろそかでないところがあるだろう。俺しは今日その商人を相手にしたのだから、先・・・ 有島武郎 「親子」
・・・これらについても十分の研究なり覚悟なりをしておくのが、事の順序であり、必要であるかもしれないけれども、僕は実にそういう段になると合理的になりえない男だ。未来は未来の手の中にあるとしておこう。来たるべきものをして来たるべきものを処置させよう。・・・ 有島武郎 「片信」
・・・となる順序である。明治四十年五月 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・(ちょっと順序を附 宗吉は学資もなしに、無鉄砲に国を出て、行処のなさに、その頃、ある一団の、取留めのない不体裁なその日ぐらしの人たちの世話になって、辛うじて雨露を凌いでいた。 その人たちというのは、主に懶惰、放蕩のため、世に見棄・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・それで自分は、天神川の附近から高架線の上を本所停車場に出て、横川に添うて竪川の河岸通を西へ両国に至るべく順序を定めて出発した。雨も止んで来た。この間の日の暮れない内に牽いてしまわねばならない。人々は勢い込んで乳牛の所在地へ集った。 用意・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・これからどうしてもおとよの話に移る順序であれど、日影はいつしかえん側をかぎって、表の障子をがたぴちさせいっさんに奥へ二人の子供が飛びこんできた。「おばあさんただいま」「おばあさんただいま」 顔も手も墨だらけな、八つと七つとの重蔵・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
一 二葉亭との初対面 私が初めて二葉亭と面会したのは明治二十二年の秋の末であった。この憶出を語る前に順序として私自身の事を少しくいわねばならない。 これより先き二葉亭の噂は巌本撫象から度々聞いていた。巌本は頻りに二葉亭の人物・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ この三つの方法は、何れを前にし、何れを後にするという順序はない。最も理想的なことは、この三つの方法が相交錯して纒った効果をあげることである。 こゝに数えなかった方法に、経験がある。これは最も重大であって、実際の人生から得るその力は・・・ 小川未明 「文章を作る人々の根本用意」
出典:青空文庫