・・・無気味にゲタと笑いかけて其儘固まって了ったらしい頬桁の、その厭らしさ浅ましさ。随分髑髏を扱って人頭の標本を製した覚もあるおれではあるが、ついぞ此様なのに出逢ったことがない。この骸骨が軍服を着けて、紐釦ばかりを光らせている所を見たら、覚えず胴・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・自分の拳固が彼女の頬桁に飛んだ。…… ほとんど一カ月ぶりで、二時過ぎに起きて、二三町離れたお湯へ入りに行った。新聞にも上野の彼岸桜がふくらみかけたといって、写真も出ていたが、なるほど、久しぶりで仰ぐ空色は、花曇りといった感じだった。・・・ 葛西善蔵 「死児を産む」
出典:青空文庫