・・・ 旅団参謀は将軍に、ざっと事件の顛末を話した。が、将軍は思い出したように、時々頷いて見せるばかりだった。「この上はもうぶん擲ってでも、白状させるほかはないのですが、――」 参謀がこう云いかけた時、将軍は地図を持った手に、床の上に・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・その顛末は、こうである。 ――――――――――――――――――――――――― 細川家は、諸侯の中でも、すぐれて、武備に富んだ大名である。元姫君と云われた宗教の内室さえ、武芸の道には明かった。まして宗教の嗜みに、疎・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・来る人ごとに同じように顛末を問われる。妻は人のたずねに答えないのも苦しく、答えるのはなおさら苦しい。もちろん問う人も義理で問うのであるから深くは問いもせぬけれど、妻はたまらなくなって、「今夜わたしはあなたとふたりきりでこの子の番をしたい・・・ 伊藤左千夫 「奈々子」
・・・と、見えなくなった顛末を語って吻と嘆息を吐いた。「まるきり踪跡が解らんのかい?」と重ねて訊くと、それ以来毎日役所から帰ると処々方々を捜しに歩くが皆目解らない、「多分最う殺されてしまったろう」と悄れ返っていた。「昨日は酒屋の御用が来て、こちら・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・余り評判にもならなかったが、那翁三世が幕府の遣使栗本に兵力を貸そうと提議した顛末を夢物語風に書いたもので、文章は乾枯びていたが月並な翻訳伝記の『経世偉勲』よりも面白く読まれた。『経世偉勲』は実は再び世間に顔を出すほどの著述ではないが、ジスレ・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ と、いきなり鏡を取り出して顔を見ながら寝台の上の母にその顛末を訴えたのだった。すると吉田の母親は、「なんのおまえばっかりかいな」 と言って自分も市営の公設市場へ行く道で何度もそんな目に会ったことを話したので、吉田はやっとそのわ・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・すなわちその顛末を書し、もって巻端に弁ず。 明治十九年十二月田口卯吉 識 田口卯吉 「将来の日本」
・・・ 以上は、先生の山椒魚事件の顛末であるが、こんなばかばかしい失敗は、先生に於いてもあまり例の無い事であって、山椒魚の毒気にやられたものと私は単純に解したいのであるが、「趣味の古代論者、多忙の生活人に叱咤せらる。南方の強か、北方の強か。」・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・と私は、瞞された顛末を早速、物語って聞かせた。「商人というものは、不必要な嘘まで吐くやつさ。どうでも、買ってもらいたかったんだろう。奥さん、鋏を貸して下さい。」友人は庭へ降りて、薔薇のむだな枝を、熱心にぱちんぱちんと剪み取ってくれている・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・けれども、この不愉快な事件の顛末を語るのが、作者の本意ではなかったのである。作者はただ、次のような一少女の不思議な言葉を、読者にお伝えしたかったのである。 節子は、誰よりも先きに、まず釈放せられた。検事は、おわかれに際して、しんみりした・・・ 太宰治 「花火」
出典:青空文庫