・・・天性の猟師が獲物をねらっている瞬間に経験する機微な享楽も、樵夫が大木を倒す時に味わう一種の本能満足も、これと類似の点がないとはいわれない。 しかし科学者と芸術家の生命とするところは創作である。他人の芸術の模倣は自分の芸術でないと同様に、・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・科学の方面で云えば、例えばある方則または事実の発見前幾年に誰が既にこれに類似の事を述べているといったような事を探索して楽しむのである。 次にもう少し類を異にした骨董趣味がある。一体科学者が自己の研究を発表するに当って、その当面の問題に聯・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・ これとはまた全く別の事であるが、われわれが科学の研究に従事している際にある一つの現象と他の一つの現象との間に著しい形式的ないし本質的類似があると感じ、そうしてその類似を解説し、主張してみても、他の観点に立っている学者から見ると、一向に・・・ 寺田寅彦 「観点と距離」
・・・その一つは心理的な側からするものであって、それは、暗示の力により、自分の期待するものの心像をそれに類似した外界の対象に投射するという作用によって説明される。枯れ柳を見て幽霊を認識する類である。もう一つの答解は物理的あるいはむしろ生理的音響学・・・ 寺田寅彦 「疑問と空想」
・・・宗教類似の信仰に夢中になって家族を泣かせるおやじもあれば、あるいは干戈を動かして悔いない王者もあったようである。 芸術でも哲学でも宗教でも、それが人間の人間としての顕在的実践的な活動の原動力としてはたらくときにはじめて現実的の意義があり・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・それももちろん結局は生理的であるとも言われようが、しかし、あらゆるいろいろの類似の「コトリ」という騒音の中で、特別な一つの種類であるところのさかな屋の盤台の音を瞬時に識別する能力はやはり驚くべきものである。 近代の物質的科学は人間の感官・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・差別がつくと云うのは、同時に同じ意識もしくは類似の意識を統一し得ると云う意味と同じ事になります。例えてみれば視覚となづける意識は、分化の結果、触覚や味覚と差別がつくと、同時にあらゆる視覚的意識を統一する事ができて始めてできる言語であります。・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・僕は少年時代に黒岩涙香やコナン・ドイルの探偵小説を愛読し、やや長じて後は、主としてポオとドストイェフスキイを愛読したが、つまり僕の遺伝的な天性気質が、こうした作家たちの変質性に類似を見付けた為なのだろう。 それはとにかく、これが僕を人嫌・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・サンスクリットの両音相類似する所から軽卒にもあのような誤りを見たのである。茲に於てか私は前論士の結論を以て前論士に酬える。仏教徒諸君、釈迦を見ならえ、釈迦の相似形となれ、釈迦の諸徳をみなその二万分一、五万分一、或は二十万分一の縮尺に於てこれ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・このことを、当時性関係の面で論議をかもされつつも強い勢力をもって一部に実行されていたコロンタイズム類似の行動と照らしあわせて今日の目で見ると、その頃の運動の歴史がもっていた小市民的な制約性の性質がまざまざとわかり、深い教訓を我々に語るもので・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
出典:青空文庫