・・・ これはただ一つの類例に過ぎないが、厄年の場合でも材料の選み方によってはあるいは意外な結果に到着する事がないものだろうか。例えば時代や、季節や、人間の階級や、死因や、そういう標識に従って類別すれば現われ得べき曲線上の隆起が、各類によって・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・おもしろいというだけではなくて世界にまだ類例のない新しい芸術ができるであろうということである。この理想への一つの試験的の作業としては、たとえば三吟の場合であれば、その中の一人なりまた中立の他の一人なりが試験的の監督となりリーダーとなってその・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ 同時に多くのイズムは、零砕の類例が、比較的緻密な頭脳に濾過されて凝結した時に取る一種の形である。形といわんよりはむしろ輪廓である。中味のないものである。中味を棄てて輪廓だけを畳み込むのは、天保銭を脊負う代りに紙幣を懐にすると同じく小さ・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・「義理人情という世界に類例のない認識秩序の美しさ」その「生活の秩序を完成さすためには人間は意志的に無になる度胸を養成しなければならぬ」而して「嘘のようなうつつの世界から」「一足さわった芳江の皮膚の柔らかな感触だけが」「強くさし閃いているのを・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・東海道の松並み木や日光の杉並み木などは、世界に類例のないほど豪壮な街路樹ではないか。松の幹が大きくうねって整列していないということは街路樹たる資格を毫も遮げるものではない。もし街路樹の必要を感ずるならば、すでにかくのごとき壮大な街路樹の存す・・・ 和辻哲郎 「城」
出典:青空文庫