・・・て複雑になって来ていて、人間としてある成長の希望を心に抱いている男のひと自身、すでに、いわゆる女らしく、朝は手拭を姉様かぶりにして良人を見送り、夕方はエプロン姿で出迎えてひたすら彼の力弱い月給袋を生涯風波なしの唯一のたよりとし、男として愛す・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・自分たちの生活にもたらされているいくつかの女同士の友情や異性の間の友情というものの過程をたどって考えてみると、どうも永遠な友情というものの方からその価値はいえず、むしろ激しい生活の風波にもまれている境遇を貫いて互に一生懸命失うまいとしている・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・進歩的な、積極的な、歴史の先頭を行って、その風波に堪える力をもった要素と、時の大勢にそろそろとついてゆく部分と、最後まで保守的な力としてのこり、反動的に存在する部分とが動的な相互関係にあることは、民衆の文化力を語る場合にも見落されない社会的・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・ヨーロッパよりも六七十年おくれて、民主社会にふみ出そうとしている日本では、おくれているだけに事情は複雑で、過去のモラルの形式は、急速に現実の風波にさらされ、再評価されつつある。貞操という種類の言葉が、よかれあしかれ、何かの実感をもってうけと・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・その点では、家庭の女というものの感じかたも自他ともに変化して来ていて、家庭の女の生活が、時代の風波から離れた片隅の幸福に保証されているものだと思っているひともなくなった。新聞のほんとうの社会欄は婦人欄へ移った、と云ったことがあるが、この表現・・・ 宮本百合子 「働く婦人」
・・・ひたすら生活に風波をおこさないようにして、世間のしきたりをそのまま受けついで、その枠のなかで、月、雪、花のながめをたのしんだりして生きてゆくことだろうか。たとえば「細雪」の世界のように。それとも、今日いわゆる中間小説というものを書いておびた・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・志賀直哉氏の人為及び芸術の魔法の輪を破るには、志賀氏の芸術の一見不抜なリアリティーが、広い風波たかき今日の日本の現実の関係の中で、実際はどういう居り場処を占めているものであるか、何の上にあって、しかくあり得ているかを看破しなければならないの・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・時代の風波はいかようであろうとも、私たちが女として人間として、よく生きぬかなければならない自身への責任はどこへ托しようもない自身の責任なのである。歴史の幅は非常にひろいものである。私たちはそのことをよく知らなければならない。立役者だけで演じ・・・ 宮本百合子 「身についた可能の発見」
・・・の日本語版がめぐりあったこれらの障害は、一つとして国際的な風波の反映でなかったものはなかった。 新しいエポークが世界と文学にひらけかけているこんにち、一九二〇年―三七年の間に書かれた「チボー家の人々」は、ロマン・ロランの「魅せられた魂」・・・ 宮本百合子 「脈々として」
・・・ 然し、時代は、允子が允男に風邪をひかすまいとばかり心をくばって生きて来る間に、風波の高いものとなって来ている。公荘夫婦は、允男のかえりがおそくでもあると「まさかそんなことはないと思うけれど」「一つの流行だからな」と息子が赤になることを・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫