・・・ 松隈内閣だか隈板内閣だかの組閣に方って沼南が入閣するという風説が立った時、毎日新聞社にかつて在籍して猫の目のようにクルクル変る沼南の朝令暮改に散三ッ原苦しまされた或る男は曰く、「沼南の大臣になるなら俺が第一番に反対運動する、国家の政治・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・という電報が朝の新聞に見え、いよいよ海戦が初まったとか、あるいはこれから初まるとかいう風説が世間を騒がした日の正午少し過ぎ、飄然やって来て、玄関から大きな声で、「とうとうやったよ!」と叫った。「やったか?」と私も奥から飛んで出で、「・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ この一夜の歓楽が満都を羨殺し笑殺し苦殺した数日の後、この夜、某の大臣が名状すべからざる侮辱を某の貴夫人に加えたという奇怪な風説が忽ち帝都を騒がした。続いて新聞の三面子は仔細ありげな報道を伝えた。この夜、猿芝居が終って賓客が散じた頃、鹿・・・ 内田魯庵 「四十年前」
魚玄機が人を殺して獄に下った。風説は忽ち長安人士の間に流伝せられて、一人として事の意表に出でたのに驚かぬものはなかった。 唐の代には道教が盛であった。それは道士等が王室の李姓であるのを奇貨として、老子を先祖だと言い做し・・・ 森鴎外 「魚玄機」
・・・レイテ戦は総敗北、海軍の大本山、戦艦大和も撃沈された風説が流れていた。 珍らしいパン附の食事を終ってから、梶と栖方は、中庭の広い芝生へ降りて東郷神社と小額のある祠の前の芝生へ横になった。中庭から見た水交社は七階の完備したホテルに見えた。・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫