・・・考えて、理屈をいっている時代でないと、食うためにだけ計画性をもつとすれば、面白いことに、食うための計画性そのものが、社会的な計画性と一致して来てしまいます。正業に従っている限り。だって、そうでしょう? 千八百円ベースが公称二千九百円になれば・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・まあ、食いたいとき食うようなものだろう。」「本能かね。」「本能じゃあない。」「なぜ。」「意識して遣っている。」「ふん」と云って、小川は変な顔をして、なんと思ったか、それきり電車を降りるまで黙っていた。 小川に分かれて・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・それ故彼は食うことが出来なかった。彼はただ無為の貴さを日毎の此の丘の上で習わねばならなかった。ここでは街々の客観物は彼の二つの視野の中で競争した。 北方の高台には広々とした貴族の邸宅が並んでいた。そこでは最も風と光りが自由に出入を赦され・・・ 横光利一 「街の底」
・・・蓮根は日本人の食う野菜のうちのかなりに多い部分を占めている。 というようなことは、私はかねがね承知していたのであるが、しかし巨椋池のまん中で、咲きそろっている蓮の花をながめたときには、私は心の底から驚いた。蓮の花というものがこれほどまで・・・ 和辻哲郎 「巨椋池の蓮」
出典:青空文庫