・・・ 一九一七年から数年の間ソヴェト同盟の到るところで、国内戦が行われていた。飢餓があった。寒さとすべての不如意があった。それにもかかわらず、新しい社会に生れ変ったソヴェトの人々は、建設の熱意に溢れて、あらゆる面に自分たちの創造力を発揮した・・・ 宮本百合子 「新世界の富」
・・・同じ白い皮をもっているからと云って、アグネスは飢餓から救われたことはなかった。若い弟が自由労働者として働いている間に、溝の中でつぶされて死ななければならなかった事情を彼等の皮膚の白さがかえはしなかった。社会の非人間的な差別が、皮の色だけにな・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・でも労働者が得たものは「飢餓」と失業とである。 困り切った北九州の労働者の大部分は故郷へ又戻って来た。出立の時よりもっともっと無一文になり、殆ど乞食姿で戻った。「満州国」から帰る旅費はどこからも補助されなかったのである。 この話をき・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・女の過ちの実に多くが、感情の飢餓から生じている。その点にふれて見れば、女の悲しみに国境なしとさえいえる有様である。 近頃、『新青年』『婦人画報』その他沢山の雑誌が、男のエティケットについて書くことが流行している。そして、実際に、或る・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・真実われら働く者の味方となり、わたしらが読みたい雑誌を発行し、観たい芝居を上演し、講演会を催し、プロレタリア・農民の文化を高めようとする日本プロレタリア文化連盟から大衆を切りはなし、飢餓と戦争とを合理化するブルジョア・地主の反動文化へつき落・・・ 宮本百合子 「日本プロレタリア文化連盟『働く婦人』を守れ!」
・・・日本の敗戦がこういう社会経済事情をもたらしたから、いわゆる性的失業者、半失業者がふえて一種の性的飢餓の心理がある。だから両性関係は混乱するのはさけがたいとされる見かたがある。その同じ理由からエロチックな中間小説が氾濫するといわれてもいるが、・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・失業、農村の飢餓に苦しむ大衆の革命力の深刻な高揚とそれに対する支配階級の恐怖は、プロレタリア文化団体に対してのうちつづく暴圧、白テロにまざまざと反映している。世界の情勢は革命的作家に実に多くの任務を負わせ、実践を必要としている。列強ブルジョ・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・―― ところが、カザンへ着いてゴーリキイがそこに見出したのは大学への道ではなくて、早速の飢餓であった。善良なエフレイノフと更に勉強だけに没頭している弟とには、貧しい恩給暮しの母親が、どんなからくりをして、息子二人と、どこの誰ともはっきり・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ ゴーリキイ自身の精神的飢餓と当時のロシア労働者の一部がインテリゲンツィアに対して抱いている辛辣な敵意が彼を苦しめた。その頃ゴーリキイはもちろん、労働者とインテリゲンツィアの対立を政治的に利用するために、どんな金を政府が撒いているかなど・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・魂の饑餓と欲求とは聖い光を下界に取りおろさないではやまない。人生の偉大と豊饒とは畢竟心貧しき者の上に恵まれるでしょう。悩める者、貧しき者は福なるかな。私は自分の貧しさに嘆く人々が一日も早く精神の王国の内に、偉大なる英雄たちの築いたあの王国の・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫