・・・そこには薔薇の花の咲き乱れた路に、養殖真珠の指環だの翡翠まがいの帯止めだのが、数限りもなく散乱している。夜鶯の優しい声も、すでに三越の旗の上から、蜜を滴すように聞え始めた。橄欖の花のにおいの中に大理石を畳んだ宮殿では、今やミスタア・ダグラス・・・ 芥川竜之介 「葱」
・・・ 鯉やすっぽんのほかに、ブルフログを養殖しようという話もあったと記憶しているが、結局おやめになったと見える。もしほんとうに、あすこに、大きなブルフログが繁殖して、大きな声でも上げているのだと、少なくも何事かを考えさせられそうである。場所・・・ 寺田寅彦 「池」
・・・というような店があり、一方に養殖ウナギのくさいのを「大衆的」にたべさせて儲けるニコウがあったのと同じようなものであった。 純文学の作品をのせる雑誌は多く綜合雑誌で、政治、社会、経済等についての論文なども学者や名士の力作がのせられた。・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
出典:青空文庫