・・・二人青い着物に同色の靴の香炉持。後からヘンリー四世。緋の外套に宝石の沢山ついた首飾りをつける。栗色の厚い髪を金冠が押えて耳の下で髪のはじがまがって居る。後から多くの供人。王が大きい方の椅子に坐すと供人が後に立ち、香炉持ハ・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・後代になれば聖女めいた色彩は一層濃くされて、天上のものが人間界の呻吟のなかへあまくだった姿のように語られ描かれているが、フロレンス・ナイチンゲールの永い現実の生活は、はたしてそんな慈悲の香炉から立ちのぼる匂いのようなものであったろうか。人間・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・ふうん、おっ母さんはこんな物を拝んだのですかと云って、ついと立って掛物の前に行って、香炉に立ててある線香を引っこ抜くのだ。己はどうするかと思って見ていたよ。そうすると、兄きは線香の燃えている尖を不動様の目の所に追っ附けて焼き抜きゃがるのだ。・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
出典:青空文庫