・・・経済的に、軍需工業関係者以外の一般人は、物価騰貴のため急速に貧困化している。文化的の面にもその貧困は響いて来ていると同時に、大衆の文化的内容そのものの質が、「依らしむべし。知らしむべからず」的事情の下に貧困化し低下しつつある。大衆の多くを語・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・晩秋に芳しいさんまを、豆にかえて、戦場の人々を偲びながら子供らに食べさせる物価騰貴時代の主婦の耳に、酒、タバコ、絹は十分につかえと聞いても、何かそこには日々の生活のやりくりとは離れた遠い、だが苦しい響があるのである。 ヒロイックな生きか・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・全体的に見て、今日の新聞そのものの性質が、明治初年の天下の公器としての自由性を失われているのであるから、現象的にニュースの断片を注ぎ込まれ、物価騰貴とその末葉のやりくりを知らされても、事象の本源までは新聞では迚も分らなくなって来ている。・・・ 宮本百合子 「女性の教養と新聞」
・・・ このあいだ政府はインフレの物価騰貴につれて最低賃銀の基底を公表した。若い人々はあれをみて何を感じたであろうか。男子三十歳から五十歳が最低四百五十円といわれている。では二十八歳の青年、二十五歳の者、二十二歳の者、その人々の労働の報酬はど・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・ 大衆課税、物価騰貴が大衆の双肩にかかっている。大衆の文化を圧する方策が、大衆の現実という名において大衆の頭上にふりかかって来ている。従って、大衆にわかる小説を書かなければならないという一見自明な『文学界』などの提案も、嘗てプロレタリア・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・特別今年のメーデーは戦争のために起った物価騰貴、労働条件の悪化、いくら戦争をしても減らない三百万人の失業者の苦しみ、労働者農民を絞め殺す白テロに抗して、勇敢に闘われなければならぬ時です。たとえばこういうメーデーがわたしら働く婦人の生活にとっ・・・ 宮本百合子 「日本プロレタリア文化連盟『働く婦人』を守れ!」
・・・米価はひどい騰貴で商人は肥え、庶人は困窮し、しかも日光の陽明門が気魄の欠けた巧緻さで建造され、絵画でも探幽、山楽、光悦、宗達等の色彩絢爛なものがよろこばれている。よるべない下級武士の二六時にのしかかって来る生活のそういう矛盾が、宗房のような・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・戦争になれば景気がよくなるとブルジョアどもは吹き立てるが、失業者は現にふえる一方、賃銀は物価騰貴で三、四割減ったも同然です。農村では肥料を買う金さえない。 製糸女工さんの賃銀は日に十二銭です。ガスよけマスク、飛行機、爆弾、そういうものを・・・ 宮本百合子 「婦人読者よ通信員になれ」
・・・現実、戦争に夫や兄弟を奪われ、物価騰貴と失業に苦しめられているわれわれが手をつかねてはいられぬ。 満蒙事件がはじまって半年近くたつのだ、ほんとに婦人の立場から戦争反〔一九三二年二月〕・・・ 宮本百合子 「婦人と文学の話」
・・・ 例えば増税、物価騰貴に対して大衆は、先ず否定的な感情をもたざるを得ず、その表現は自然否定的な形から入って行く。文学では近頃日本的なものが云々されているが、私たちが日本人であり、しかも最も日本語というものの内容表現と密接に結ばれている日・・・ 宮本百合子 「プロ文学の中間報告」
出典:青空文庫