・・・それよりも更と不思議なは、忽然として万籟死して鯨波もしなければ、銃声も聞えず、音という音は皆消失せて、唯何やら前面が蒼いと思たのは、大方空であったのだろう。頓て其蒼いのも朦朧となって了った…… どうも変さな、何でも伏臥になって居るら・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・一つとして、疲労で蒼ざめ形のくずれていない顔はないのに、気が立っている故か、自暴自棄の故か、此方の列車とすれ違うと、彼等は、声を揃えてわーっと熾んな鯨波をあげる。気の毒で、此方から応える声は一つもしなかった。 けれども、家の安否を気遣う・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
出典:青空文庫