・・・土人は、――あの黄面の小人よりも、まだしも黒ん坊がましかも知れない。しかしこれも大体の気質は、親しみ易いところがある。のみならず信徒も近頃では、何万かを数えるほどになった。現にこの首府のまん中にも、こう云う寺院が聳えている。して見ればここに・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・なんでも御壻になる人は、黒ん坊の王様だと云うじゃないか?第二の農夫 しかし王女はあの王様が大嫌いだと云う噂だぜ。第一の農夫 嫌いなればお止しなされば好いのに。主人 ところがその黒ん坊の王様は、三つの宝ものを持っている。第一が千里・・・ 芥川竜之介 「三つの宝」
・・・だんだん近くになって見ると、ついて居るのはみんな黒ん坊で、眼ばかりぎらぎら光らして、ふんどしだけして裸足だろう。白い四角なものを囲んで来たのだけれど、その白いのは箱じゃなかった。実は白いきれを四方にさげた、日本の蚊帳のようなもんで、その下か・・・ 宮沢賢治 「黄いろのトマト」
・・・ うちの連中は暑さで閉口しながら元気で、太郎はこの頃小さい黒ん坊のように半裸で暮して居ります。大きい青桐の下に大タライを出してそこへゴムの魚や軍艦を浮べ、さかんに活躍です。スエ子の糖尿がいい塩梅にこの頃は少しましです。でもずっと注射して・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・真黒な小さい黒ん坊のようなヒヨコは可笑しくて可愛いそうです。 寒気のきびしい間、どうか益々体に気をつけて下さい。〔一九四〇年一月〕 宮本百合子 「二人の弟たちへのたより」
・・・印度の港で魚のように波の底に潜って、銀銭を拾う黒ん坊の子供の事や、ポルトセエドで上陸して見たと云う、ステレオチイプな笑顔の女芸人が種々の楽器を奏する国際的団体の事や、マルセイユで始て西洋の町を散歩して、嘘と云うものを衝かぬ店で、掛値と云うも・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫