・・・もしこういう拘束がなかったとすると各自の個性はその最も安易な出入り口にのみ目を向けるであろうが、定座の掟によってそれらのわがままの戸口をふさがれてしまうので、そこでどうにかそこから抜け出しうべく許されたただ一筋の困難な活路をたどるほかはない・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・それで自分は、ちょうど色盲の人に赤緑の色の観念が欠けているように、健康なからだに普通な安易な心持ちを思料する事ができないのではないかと思う事もある。もっとも健康な人は、そういういい心持ちが常態であってみれば、病後ででもない限りやはりそれを安・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・ 葉子の鋭い感情の中でこの生々しい部分は何か安易にまとめられて描かれている。葉子自身が母の心というような通俗的な定形に従って解決していたのであろうか。作者は「或る女」の広告として「畏れる事なく醜にも邪にもぶつかって見よう。その底には何が・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・れていることはなかろうが、それは一応チャーリーの子供好きの特色、独特性によるものとして、どうも納得できないのは、亀のチャーリーがピオニイル養成という現実の仕事の理解に対して示している機械的な卑俗的な、安易さである。 たとえば、メリイとい・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ただし、主人公の青年の父親が、農民の生活を不安にする現実から、段々民主的な働きに目を向けて来てやがて積極的になってからのところが、割合安易にかけてしまった。アカハタをよみはじめ、黙って考えをかえてゆくあたりは、さもあろうと肯けるが、積極的に・・・ 宮本百合子 「稚いが地味でよい」
・・・経験主義者の持つ安易な評価は、自分自身に対してもひとに対しても抱いていないのである。階級全体の発展が大なる困難におかれている時、彼女のように過去の生活において直接間接永い間大衆の力との密接な連関で作家としても正しく育って来た作家は、自身の作・・・ 宮本百合子 「窪川稲子のこと」
・・・権力者のきたないからくりを見すかしながら、みすかしてひとまずそれに流されている自分なのだ、という自覚から安易になっている。 「夫婦再婚」 夫の発病によって新しい愛が妻との間にめぐむいきさつは、もっとしっくりとした筆致で描かれてよい・・・ 宮本百合子 「『健康会議』創作選評」
・・・ まじめに科学の仕事にたずさわり、専門的にまた世俗的にあらゆる難関とたたかっている今日の日本の科学者たちから見れば、おそらくあまり安易通俗に、全篇が物語として扱われているに相違ない映画、パストゥールを主人公とした「科学者の道」や「エール・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ 三好十郎は、いわゆる肉体派作家、中間小説を主張する作家の多くの人々の人生態度と作品の安易な商品性を明らかに軽蔑する。けれどもその軽蔑にもかかわらず、他の一面では、彼の名づける小豚派文学の、発生の社会的起源について、否定しきれないものを・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・劇中劇などと逃げを打って、イヤに比喩めかして、あり得べからざる安易さで革命をこねあげて見せている。 科白では、ソヴェト赤紫島万歳! と呼ぶ。だが、その「万歳」は本気にうけとれない。君等の考えている革命なんてのはこんなところだろう、と云わ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫