・・・十韻より用文章等の手習、九々の数、加減乗除、比例等の算術にいたり、句読は、府県名・国尽・翻訳の地理・窮理書・経済書の初歩等を授け、あるいは訳書の不足する所はしばらく漢書をもって補い、習字・算術・句読・暗誦、おのおの等を分ち、毎月、吟味の法を・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・五十韻を暗誦して、いろはを知らざる者は、下足番にも用うべからず。然るに、生れて第一番の初学に五十韻とは、前後の勘弁なきものというべし。この事は七、八年前より余が喋々説弁する所なれども、かつてこれに頓着する者なし。近来はほとんど説弁にも草臥た・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・ みんなは毎日その石で畳んだ鼠いろの床に座って古くからの聖歌を諳誦したり兆よりももっと大きな数まで数えたりまた数を互に加えたり掛け合せたりするのでした。それからいちばんおしまいには鳥や木や石やいろいろのことを習うのでした。 アラムハ・・・ 宮沢賢治 「学者アラムハラドの見た着物」
・・・娘たちが大きくなってからは、彼女たちのシェークスピアの詩の暗誦仲間であり、バーンズの共同の愛好者であった。初孫のジャンがいたずら盛りとなってからは、このジャンがマルクスの最も愛すべき支配者となった。エンゲルスとリープクネヒトが馬になり、カー・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・地方の唄をすっかり暗誦していて合わせたり、「ほらほら、あれがそや」「ええなあ……恍惚する程ええやないか」 一菊と云う舞妓は、舞いながら、学生が何か合図するのだろう、笑いを押えようとし、典型的に舞妓らしい口元を賢こげに歪めた。・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・と云う調子で第一に暗誦された為、マーシャが変にいやみに、思わせぶりになったと云うことも無くはないが――其那ことでも、慾を云えば、女優の技倆一つで苦にさせずにすむのではあるまいかとも思う。マーシャがプーシュキンの詩を、彼那に度々繰返さずにいら・・・ 宮本百合子 「「三人姉妹」のマーシャ」
・・・彼等は、毎日毎日いつ尽きるとも知れない見物人と、飽々する説明の暗誦と、同じ変化ない宝物どもの行列とに食傷しきっているらしい。不感症にかかっているようだ。悠くり心静かに一枚の絵でも味おうと思えば、我々はこれ等の宝物に食われかけている不幸な人々・・・ 宮本百合子 「宝に食われる」
・・・ 千世子の何とも云いもしないうちに暗誦する様にスラスラっとのべて出て行きそうにした。 一寸御免なさい。 あわただしく千世子は立ちあがって京子の後をついて入口に行った。 またいらっしゃい、 あしたでもね!・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・梶は、国際列車にもまだ沢山の乗換場所がいる、というような言葉を機械的に暗誦し易いフレーズにまとめて云っているのであるが、この見解がもし作者自身にとって具体的な内容で把握されているのであったら、関西財界の大立物であるという友人に向って「日本の・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・軍人勅諭を日毎夜毎暗誦させて、それが出来ないとビンタを食わしていた将校たちは、遠い島々で、戦局が絶望になるとさまざまの口実をこしらえて飛行機で本国に逃げ帰った。そして戦功によって立身をした。「聖戦」といわれた戦争の本質は終って見れば虚偽の侵・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫