・・・人に教うるに常情以外の難きを以てす、教育家の事に非ざるなり。元来尊敬は外にして親愛は内なり。内に親愛の至情なきも外面に尊敬の礼を表することは易きが故に、舅姑に対して朝夕の見舞を闕く可らずと教うれば、教の如く見舞うことも易し。勤む可き業を怠る・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・この枝葉・外形の事よりして双方の間に不和を生じ、改進の一元素中に意外の変を起すは、国のためにもっとも悲しむべき事ならずや。すなわち、編首にいわゆる直接のために眼光を掩われて地位の利害に眩するものなり。 たとえば新聞記者の禁獄の如し。その・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・なる問題は、今の所到底理論の解決以外だ。が、解決が出来たとした所で、死は矢張り可厭だろう。ただ解決が出来れば幾分か諦が付き易い効はあるが、元来「死」が可厭という理由があるんじゃ無いから――ただ可厭だから可厭なんだ――意味が解った所で、矢張り・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・文を売りて米の乏しきを歎き、意外の報酬を得て思わず打ち笑みたる彼は、ここに至って名利を見ること門前のくろの糞のごとくなりき。臨むに諸侯の威をもってし招くに春岳の才をもってし、しこうして一曙覧をして破屋竹笋の間より起たしむるあたわざりしもの何・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・これ尋常のことのごとくなれど曙覧以外の歌人には全くなきことなり。面白からぬに「面白し」と詠み、香もなきに「香に匂ふ」と詠み、恋しくもなきに「恋にあこがれ」と詠み、見もせぬに遠き名所を詠み、しこうして自然の美のおのが鼻の尖にぶらさがりたるをも・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・ 先生は意外なようにしばらくじっとカムパネルラを見ていましたが、急いで「では。よし。」と云いながら、自分で星図を指しました。「このぼんやりと白い銀河を大きないい望遠鏡で見ますと、もうたくさんの小さな星に見えるのです。ジョバンニさんそ・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・一昨日の第二限ころなんか、なぜ燈台の灯を、規則以外に間〔一字分空白〕させるかって、あっちからもこっちからも、電話で故障が来ましたが、なあに、こっちがやるんじゃなくて、渡り鳥どもが、まっ黒にかたまって、あかしの前を通るのですから仕方ありません・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ その心持を誠意のこもった現実の力として表現しようとするとき私たちは、一つの救国運動として故国に対する人民の愛と必要に立つ統一的動きを肯定する以外に、どんな道を見出せるだろうか。雄々しいフランスの婦人たちは、フランスが歴史の波瀾を凌いで・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・なぜといえば、トルーマン再選を奇蹟的だの意外だのと書きながら、一方でその新聞は、トルーマンは彼の困難な選挙活動のはじまりから、非民主的だった第八十議会の実状を率直に訴えれば、アメリカ市民は彼に協力するにちがいないという十分の確信にたっていた・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・ 小林多喜二の文学者としての活動が、どんなに当時の人々から高く評価され、愛されていたかということは、殺された小林多喜二の遺骸が杉並にあった住居へ運ばれてからの通夜の晩、集った人たちの種類から見ても分った。彼の作品を熱心によんでいた労働者・・・ 宮本百合子 「今日の生命」
出典:青空文庫