・・・そういう批判などはどうでもいいが、私はこの煙突男の新聞記事を読みながら、ふと「これが紡績会社の労働者でなくて、自分の研究室の一員であったとしたら」と考えてみた。ともかくもだれのまねでもない、そうしてはなはだ合目的なこの一つの所行を、自分の頭・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・ための運動委員が選ばれた時、自分もその一員にされてしまった。そうしてそのためにもう一人の委員と連れ立って始めて田丸先生の下宿を尋ねた。当時先生の宿は西子飼橋という橋の近くで、前記の化学のK先生と同宿しておられた。厳格な先生のところへ、そうい・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・ための運動委員が選ばれた時に、自分も幸か不幸かその一員にされてしまった。その時に夏目先生の英語をしくじったというのが自分の親類つづきの男で、それが家が貧しくて人から学資の支給を受けていたので、もしや落第するとそれきりその支給を断たれる恐れが・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・われらの食膳の一部を食っている、わが家族の一員であるはずのこの猫が、蜥蜴などを食うのは他の家族の食膳全体を冒涜するような気がするというのかもしれない。それほどにまでこの四足獣はわれわれの頭の中で人格化しているのだと思われる。 私は夜ふけ・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・当時は世界第一であったナウエンの無線電信発信所を見物したのもこの見学団の一員としてであった。テレフンケン・システムの大きな蛇のようなスパークがキュンキュンと音を立ててひらめいては消えるのを見た。同じ団体にはいってヘッベルの劇場の楽屋見学をし・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・彼らは隣り近所の人間を自己と同程度のものと見做して、擦ったもんだの社会に吾自身も擦ったり揉んだりして、あくまでも、その社会の一員であると云う態度で筆を執る。したがって隣りの御嬢さんが泣く事をかく時は、当人自身も泣いている。自分が泣きながら、・・・ 夏目漱石 「写生文」
・・・が、われわれの方は人間であるという事が大切な事で、社会上よりいうときは御互に社会の一員であるけれども、われわれの方は貴方がたに比べて人間という事が大事になる。 ところがここに腕の人でもなく頭の人でもない一種の人がある。資本家というものが・・・ 夏目漱石 「無題」
・・・私が独立した一個の日本人であって、けっして英国人の奴婢でない以上はこれくらいの見識は国民の一員として具えていなければならない上に、世界に共通な正直という徳義を重んずる点から見ても、私は私の意見を曲げてはならないのです。 しかし私は英文学・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・個人は、かかる意味に於ての国家の一員として、道徳的使命を有するのである。故に世界的世界形成主義に於ては、各の個人は、唯一なる歴史的場所、時に於て、自己の使命と責務とを有するのである。日本人は、日本人として、此の日本歴史的現実に於て、即ち今日・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・主人ピエエルが現代に始めて出来た精神的貴族社会の一員であると云うことは、この周囲を見て察せられる。あるいは精神的富豪社会と云った方が当たっているかも知れない。それはどんな社会だと云うと、国家枢要の地位を占めた官吏の懐抱している思想と同じよう・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
出典:青空文庫