・・・竹内はそれと気がつき、「ウン貴様は未だこの方を御存知ないだろう、紹介しましょう、この方は上村君と言って北海道炭鉱会社の社員の方です、上村君、この方は僕の極く旧い朋友で岡本君……」 と未だ言い了らぬに上村と呼ばれし紳士は快活な調子で・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ 明後日村を出かけるという日の夕方近く、沢や婆は、畦道づたいに植村婆さまを訪ねた。竹藪を切り拓いた畑に、小さい秋茄子を見ながら、婆さんは例によってめの粗い縫物をしていた。沢や婆の丸い背を見つけると、彼女は、「おう、婆やでないかい」・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・新聞に代表的な作品の写真がのったなかに、上村松園の作品があり、その新鮮さ、たっぷりさに目のなかが涼しくなるようないい印象をうけた。夏の日に張りものをしている妻の絵で、はり板の横に腰をおとしてしゃがんでいる女の体のたっぷりしたすこやかな肉置き・・・ 宮本百合子 「「青眉抄」について」
夫人の虚栄心から出入りの軍需工業会社員から金銭を収受し、ついに夫の地位と名誉にまで累を及ぼした植村中将の事件についていって見たい。 こういう事件はやはり昨今の一部にかたよった景気につれて起った事でしょう、ま・・・ 宮本百合子 「果して女の虚栄心が全部の原因か?」
・・・火点しごろ過ぎて上田に着き、上村に宿る。 十八日、上田を発す。汽車の中等室にて英吉利婦人に逢う。「カバン」の中より英文の道中記取出して読み、眼鏡かけて車窓の外の山を望み居たりしが、記中には此山三千尺とあり、見る所はあまりに低しなどいう。・・・ 森鴎外 「みちの記」
・・・銭なんていつでもええわ。上村の三造さんの嫁さんに頼まれてるのやで、姉やんが要らんだら持っていくけど。」「わしらそんな良えのしたかて、何処へも見せに行くところがないわ。」「そんなこと云うてたら、裸体でいようかしらず、まアいっぺん見てみ・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫