・・・と、娘はやさしい心に感じて、大きな黒い瞳をうるませたこともあります。 この話は遠くの村まで響きました。遠方の船乗りやまた、漁師は、神様にあがった絵を描いた蝋燭の燃えさしを手に入れたいものだというので、わざわざ遠い処をやって来ました。そし・・・ 小川未明 「赤い蝋燭と人魚」
・・・と、娘は、老夫婦のやさしい心に感じて、大きな黒い瞳をうるませたこともあります。 この話は遠くの村まで響きました。遠方の船乗りや、また漁師は、神さまにあがった、絵を描いたろうそくの燃えさしを手に入れたいものだというので、わざわざ遠いところ・・・ 小川未明 「赤いろうそくと人魚」
・・・と、ねえやは、目をうるませて、いいました。 すると、ある日のこと、弟の孝二くんから、たいそうよろこんで、手紙がまいりました。そして、山で拾った、くりや、どんぐりを送ると書いてありました。「町が遠いのに、弟さんは、小包を出しにいったん・・・ 小川未明 「おかめどんぐり」
・・・するとそこには、十二三の美しい女の子が目をうるませて立っていました。「どこの子かしらないが、どうしてこんなにおそくたずねてきました?」と、おばあさんはいぶかりながら問いました。「私は、町の香水製造場にやとわれています。毎日、毎日、白・・・ 小川未明 「月夜とめがね」
・・・が、直にまた悲痛な顔になって堪え涙をうるませた。自分の軽視されたということよりも、夫の胸の中に在るものが真に女わらべの知るには余るものであろうと感じて、なおさら心配に堪えなくなったのである。 格子戸は一つ格子戸である。しかし明ける音は人・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・道太は別に強く言ったつもりではなかったけれど、心臓でも昂進したようにお絹が少し目をうるませて、困惑しているのに気がつくと、にわかにいじらしくなって、その日は道太は加わらないことにしてしまった。兄の養嗣子の嫁の実家で、家族こぞって行くというこ・・・ 徳田秋声 「挿話」
出典:青空文庫