・・・ 己は海岸に立ってこの様子を見ている。汐は鈍く緩く、ぴたりぴたりと岸の石垣を洗っている。市の方から塔へ来て、塔から市の方へ帰る車が、己の前を通り過ぎる。どの車にも、軟い鼠色の帽の、鍔を下へ曲げたのを被った男が、馭者台に乗って、俯向き加減・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・ 己はこの国の海岸を愛する。夢を見ているように美しい、ハムレット太子の故郷、ヘルジンギヨオルから、スウェエデンの海岸まで、さっぱりした、住心地の好さそうな田舎家が、帯のように続いていて、それが田畑の緑に埋もれて、夢を見るように、海に覗い・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・ 中世の末にヨーロッパの航海者たちが初めてアフリカの西海岸や東海岸を訪れたときには、彼らはそこに驚くべく立派な文化を見いだしたのであった。当時のカピタンたちの語るところによると、初めてギネア湾にはいってワイダあたりで上陸した時には、・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫