・・・ただ道路の整理と建築の改善とそして街樹の養成とである。自分はこの点において、松江市は他のいずれの都市よりもすぐれた便宜を持っていはしないかと思う。堀割に沿うて造られた街衢の井然たることは、松江へはいるとともにまず自分を驚かしたものの一つであ・・・ 芥川竜之介 「松江印象記」
・・・は生れぬものとすれば、そういう詩、そういう文学は、我々――少くとも私のように、健康と長寿とを欲し、自己及自己の生活を出来るだけ改善しようとしている者に取っては、無暗に強烈な酒、路上ででも交接を遂げたそうな顔をしている女、などと共に、全然不必・・・ 石川啄木 「性急な思想」
・・・かつ他日この悪道路が改善せられて市街が整頓するとともに、他の不必要な整頓――階級とか習慣とかいう死法則まで整頓するのかと思えば、予は一年に十足二十足の下駄をよけいに買わねばならぬとしても、未来永劫小樽の道路が日本一であってもらいたい。 ・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・ すなわち真の詩人とは、自己を改善し自己の哲学を実行せんとするに政治家のごとき勇気を有し、自己の生活を統一するに実業家のごとき熱心を有し、そうしてつねに科学者のごとき明敏なる判断と野蛮人のごとき卒直なる態度をもって、自己の心に起りくる時・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・そこに、精神の自由の下に、人格の改善が行われます。彼等はそれによって、芸術的、社会革新の信念を得ようとします。同じ人類の理想、思想の下に結合しようとします。それが最初少数の信者であったにしても、その熱意の存するかぎり、永久に働きかけるもので・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・社会を改善する目的も大衆に肉体的快楽、物的満足を与えるためではない。その各々の自我を実現せしめんがためである。 かような人格価値主義に対して幸福主義――自己の快楽の追求から社会の福利の増進にいたるまでの広汎な功利主義の倫理学が立つ。その・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・と連絡をとって、実際の運動と結びつこうとしたり、内では全部が結束して「獄内待遇改善」の要求を提出しようとしているそうだ。 彼奴等がわれ/\をひッつかんで、何処へ押しこもうとも、われ/\は自分たちの活動を瞬時の間だって止めようとはしていな・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・「汲み取り便所は如何に改善すべきか?」という書物を買ってきて本気に研究したこともあった。彼はその当時、従来の人糞の処置には可成まいっていた。 新宿の歩道の上で、こぶしほどの石塊がのろのろ這って歩いているのを見たのだ。石が這って歩いている・・・ 太宰治 「葉」
・・・ 一路、生活の、謂わば改善に努力して、昨今の私は、少し愚かしくさえなっている。行動は、つねに破綻の形式を執る。かならず一方に於いて、間抜けている。完璧は、静止の形として、発見されることが多い。それとも、目にとまらぬ早さで走るか、そのいず・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・寝てからいろいろその改善を企図することもあるけれども、これはどうにも死ななきゃ直らないというような程度に迄なっているようです。 私も、もう三十九になりますが、世間にこれから暮してゆくということを考えると、呆然とするだけで、まだ何の自信も・・・ 太宰治 「わが半生を語る」
出典:青空文庫