・・・けれどもいつでも家中まだしぃんとしているからな。」「早いからねえ。」「ザウエルという犬がいるよ。しっぽがまるで箒のようだ。ぼくが行くと鼻を鳴らしてついてくるよ。ずうっと町の角までついてくる。もっとついてくることもあるよ。今夜はみんな・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ 足が痛い痛いと云いながら私が家中□(走して居るのを皆が笑って誰も取り合わない。 すっかり飾って仕舞うと三時近い。 顔が熱くなって唇がブルブルして居る。 S子の顔を見るまでは落つけないのだから―― 今ベルがなるか今ベルが・・・ 宮本百合子 「秋風」
・・・ 眠りたいだけ眠り、気の向いた時食べ、そして何をするでもなくノソノソ家中歩き廻って居る。 それでもまあ、少しばかり読んだり書いたりする位が人間らしい。 何か読むか書くかしなければ居られない私がその仕事を取りあげられて仕舞うと「ど・・・ 宮本百合子 「秋毛」
・・・女としての生活がこれまでもそれによって悩んで来た種々様々の矛盾は、それなりで、より広く社会活動の渦中に投げこまれあるいは吸収されている状態であると思う。近頃早婚と多産とが奨励されはじめている。それはなんとなく賑やかで楽しげな声である。だが、・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・それはそういう立場におちいった作家たちにしろ、あれだけ深刻な戦争の現実の一端にふれ、国際的なひろがりの前で後進国日本の痛切な諸矛盾を目撃し、日に夜をつぐいたましい生命の浪費の渦中にあったとき、一つ二つ、あるいは事態そのものについて、一生忘ら・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・だが、そのひとが、まさに火中に身を投じて、必死の活躍をしている時、何を考えていたろう。一途に救けようとしているものを救け出すことしか考えていなかったことは確かである。その目的にしたがい、日頃の訓練によって刻々の危険から身をかわしつつ、最大の・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・ 真の向上心は欠け、自らそのことを実行しない、しても渦中にないという丈で、云える批評で、安心するのは低級至極な話だ。わかって居るつもりで、私は自分のきらう口やかましく実力なき批評家の一人になりかけた。どうかしてもっと鋭き wide-aw・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・双方が縺れ絡んでいる、その渦中に身はおかれたままである。その結果として、作中に事件は推移するが、全篇を通っているいくつかの根本的な問題、小説の抑々発端をなした諸契機の特質にふれての解決の示唆は見えていないのである。 それにもかかわらず、・・・ 宮本百合子 「はるかな道」
・・・それは殿様がお隠れになった当日から一昨日までに殉死した家臣が十余人あって、中にも一昨日は八人一時に切腹し、昨日も一人切腹したので、家中誰一人殉死のことを思わずにいるものはなかったからである。二羽の鷹はどういう手ぬかりで鷹匠衆の手を離れたか、・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・近所のものが誰の住まいになるのだと云って聞けば、松平の家中の士で、宮重久右衛門と云う人が隠居所を拵えるのだと云うことである。なる程宮重の家の離座敷と云っても好いような明家で、只台所だけが、小さいながらに、別に出来ていたのである。近所のものが・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
出典:青空文庫