・・・負傷者は直ちに北区大同病院にかつぎ込み加療中。――この乱闘現場の情景を目撃してゐた一人、大和農産工業津田氏は重傷に屈せず検挙に挺身した同署員の奮闘ぶりを次のやうに語つた。――場所は梅田新道の電車道から少し入つた裏通りでした。一人の私・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・治まる聖代のありがたさに、これぞというしくじりもせず、長わずらいにもかからず、長官にも下僚にも憎まれもいやがられもせず勤め上げて来たのだ。もはやこうなれば、わしなどはいわゆる聖代の逸民だ。恩給だけでともかくも暮らせるなら、それをありがたく頂・・・ 国木田独歩 「二老人」
・・・ と下僚にたずねられ、彼は苦笑し、「いや、もう、さんざんさ」 と答える。 討論の現場に居合せたもうひとりの下僚は、「いえ、いえ、どうして、かいとう乱麻を断つ、というところでしたよ」 とお世辞を言う。「かいとうとは・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・ それほど無政府主義が恐いなら、事のいまだ大ならぬ内に、下僚ではいけぬ、総理大臣なり内務大臣なり自ら幸徳と会見して、膝詰の懇談すればいいではないか。しかし当局者はそのような不識庵流をやるにはあまりに武田式家康式で、かつあまりに高慢である。得・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・電車の中でも栖方は、二十一歳の自分が三十過ぎの下僚を呼びつけにする苦痛を語ってから、こうも云った。「僕がいま一番尊敬しているのは、僕の使っている三十五の伊豆という下級職工ですよ。これを叱るのは、僕には一番辛いことですが、影では、どうか何・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫