・・・ この観測に使った小船は、今は理学部の北玄関の壁に立てかけて乾燥状態にある。もとは大きな盥を浮かべて船の代わりにしたものであるが、いろいろの観測に必要だというので、水産講習所へ頼んで造ってもらったものである。池につないでおくと、たぶん職・・・ 寺田寅彦 「池」
・・・ われわれの池が、いろんな小説や感想文の場面に使われた例もなかなか少なくなさそうであるが、このほうの文献はそのほうの専門家にお願いしたほうがよいと思うから、ここではいっさい触れない事とする。・・・ 寺田寅彦 「池」
・・・ 見なれた人にはなんでもない物事に対する、これを始めて見た人の幼稚な感想の表現には往々人をして破顔微笑せしめるものがあるのである。 文楽の人形芝居については自分も今まで話にはいろいろ聞かされ、雑誌などでいろいろの人の研究や評論などを・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・ 実際もし映画殊に発声映画の技術が発達を重ねて行ってその器械がもう少し安くなって一般の使用に便利なようになれば、多くの学校の無味乾燥な教授の大部分は映画で置換えられるであろう。全級一度に教授することによって教員の手が明く。先生方はそうし・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・ 植物の果実のことだけを詳しく取り扱ったいわゆるカルポロジーの本を読んだときに、乾燥すると子房がはじけて種子をはじき飛ばすものの特例の一つとして Impatiens noli-tangere というものが引き合いに出ていた。インパチェン・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・打ち返されて露出している土でも乾燥の程度や遠近の差でみんなそれぞれに違った色のニュアンスがある。それらのかなりに不規則な平面的分布が、透視法という原理に統一されて、そこに美しい幾何学的の整合を示している。これらの色を一つ取りかえても、線を一・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・ある辰年の冬ある地方がひどく乾燥でそのために大火が多かったとして、次の辰年にも同様な乾燥期が来るということには、単なる偶然以外に若干の気候週期的な蓋然率が期待されないこともない。 気候の変化が人間の生理にも若干の影響があるかもしれないと・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 数日たった後に帝劇で映画の間奏として出演しているウィンナ舞踊団を見た。アメリカのと比べてどこか「理論」の匂いがある。それだけにやはり充実した理窟なしの活力といったようなものが足りなくて淋しい。見物は義理からの拍手を送るのに骨を折ってい・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・こんな事をば、出入の按摩の久斎だの、魚屋の吉だの、鳶の清五郎だのが、台所へ来ては交る交る話をして行ったが、然し、私には殆ど何等の感想をも与えない。私は唯だ来春、正月でなければ遊びに来ない、父が役所の小使勘三郎の爺やと、九紋龍の二枚半へうなり・・・ 永井荷風 「狐」
・・・に対する感想を窺う事は出来ない。ルッソオ出でて始めて思想は一変し、シャトオブリアンやラマルチンやユウゴオらの感激によって自然は始めて人間に近付けられた。最初希臘芸術によって、diviniseされた自然、仏蘭西古典文学によって度外視された自然・・・ 永井荷風 「夏の町」
出典:青空文庫