・・・を除けば、あとは皆地上数百ないし数千メートルの高所から降下するものである。その中でも雨と雪は最も普通なものであるが、雹や霰もさほど珍しくはない。霙は雨と雪の混じたもので、これも有りふれた現象である。 以上挙げたものの外に稀有な降水の種類・・・ 寺田寅彦 「凍雨と雨氷」
・・・これは少し変った言い分のようであるが、しかし一般に云って、同じ団体がそう永く無事に続くということ自身が沈滞と硬化とを意味する場合が多い。これは政党でも学術団体でも、芸術団体でも同様である。どこでもやはり時々「野獣の群」が出なければ新しい生命・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・ 新しい交通機関、例えば地下鉄や高架線が開通すると、誰よりも先に乗ってみないと気のすまないという人がある。つい近ごろ、上野公園西郷銅像の踏んばった脚の下あたりの地下に停車場が出来て、そこから成田行、千葉行の電車が出るようになった。その開・・・ 寺田寅彦 「猫の穴掘り」
一 給仕人は電気 今春米国モンタナの工科大学で卒業生のために祝宴を開いた時、ボーイの代りに電気を使って御馳走した。一列に並べた食卓の真中に二条のレールを据え付け、この上を御馳走を満・・・ 寺田寅彦 「話の種」
・・・早慶戦のあった金曜日の夕方例によって友人と新宿の某食堂で逢って連句をやろうと思っていると、○大学の学生が大勢押しかけて来て、ビールを飲んで卓を叩いて校歌を唄い出した。喧騒の声が地下室に充ちて向き合っての話声も聞取れなくなった。「一体勝って騒・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・ 三 高架鉄道から下りてトレプトウの天文台へ行く真直な道路の傍に自分が立っている。道の両側には美しい芝生と森がある。 銅色をした太陽が今ちょうど子午線を横切っているのだが、地平線からの高度が心細いように低・・・ 寺田寅彦 「夢」
・・・水平に一線を画した高架線路の上を省線電車が走り、時に機関車がまっ白な蒸気を吐いて通る。それと直交し弓なりに立って見える呉服橋通りの道路を、緑色の電車のほかに、白、赤、青、緑のバスが奇妙な甲虫のようにはい上りはいおり行きちがっている。遠くには・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・それで、なるべくこれをどこまでも研究してみようという考えを起こさぬでもなかったが、ある都合上高等学校では工科にはいり、三年の時改めて物理に転じ、もって今日に至ったのである。 記憶に便ぜんがため、自分は学校にいるうち抜き書きということをよ・・・ 寺田寅彦 「わが中学時代の勉強法」
・・・無限の感謝は新時代の企てた女子教育の効果が、専制時代のそれに比して、徳育的にも智育的にも実用的にも審美的にも一つとして見るべきもののない実例となし得るがためである。無筆のお妾は瓦斯ストーヴも、エプロンも、西洋綴の料理案内という書物も、凡て下・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・わたくしは芸術が其の発生し、其の発達し来った本国を離れて、気候風土及び人種を異にした境に移された場合、其の芸術の効果と云い或は其の価値と称するものの何たるかを思考しなければならなかった。言を換うれば芸術の完全に鑑賞せられ得べき範囲についてお・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
出典:青空文庫