・・・早く工作してしまわないと、取り返しのつかないことになる。私はこの山の海に向いたほうでは、あすこがいちばん弱いと思う。」老技師は山腹の谷の上のうす緑の草地を指さしました。そこを雲の影がしずかに青くすべっているのでした。「あすこには熔岩の層・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・文学の歩みがその社会的相関の相貌をつよく反映して、種々な交錯の中に推移してゆかなければならないことも亦当然であろう。 最近の数ヵ月間に、作家による戦争のルポルタージュが前面におし出されて来ている。一九三七年の日本文学について語るとき、こ・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・集団農場・暁が、つい附近の富農の多い村と対抗しつつどんな困難のうちに組織されたか、どんな人間が、どんなやり方で――うすのろの羊飼ワーシカさえどんな熱情で耕作用トラクターを動かそうとしたか、そこには集団農場を支持するかせぬかから夫婦わかれもあ・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ 明日の農村の希望は零細な耕地の整理と資材の問題の解決とともに耕作が益々機械化されてゆかなければならないことである。日本型トラクターの能率は馬耕の二倍、人耕の十二倍で、しかも反当りの費用は人耕の四円五十三銭に比べて僅か一円九十五銭ですむ・・・ 宮本百合子 「新しき大地」
・・・「与党工作の舞台裏」で楢橋氏が首相を動かしているいきさつが解剖され、極めて興味あるくだりがあった。これからつくろうとする新党の性格にふれて、十四日、楢橋氏は首相に向い次のような意味の話をした。「あなたは三菱の婿であり、これまで資本家の代表で・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・初めのうちは皆心配したり、びくついていたが、村じゅうこうなっては却って力がついて、一つかたまって減主義的な方法で耕作するために、随分富農や反動分子との闘争を経て来た。 第一次五ヵ年計画のすんだ今では全農戸の七割が集団農場化し、耕作機械、・・・ 宮本百合子 「今にわれらも」
・・・面白さ、それから段々と低くなって並木通へ視線が導かれ、そこに在る点景の白い婦人の姿を中心として一層ひろい海面へのびてゆくリズムは実に変化と諧調に富んでいて、眺めていると複雑にとらえられている角度や線の交錯から、その海辺に都会がつくられて来た・・・ 宮本百合子 「ヴォルフの世界」
・・・好きな髪に結って居ってもよかったのが、勇ましい髪形をしなければならなくなったり、千人針に動員されたことから次第に、動員の程度がひどくなって、終りには学校工場に働いたり、また実際に工場に行って暮したり、耕作したり、学課は殆ど出来ない状態でこの・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
・・・風変りな俊寛は、鬼界ヶ島で鬼と化した謡曲文学の観念を吹きはらって、勇壮に鰤釣りを行い、耕作を行い、土人の娘を妻として子供を五人生み、有王を驚殺するのである。日本の封建の伝統が近代日本の心にも伝えている生命への蔑視を、これらの作品はつよく否定・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・平明に、こだわりなく天と地とがぽーっと胸を打ち開いて、高らかな天然の樹木、人間の耕作物をいだきのせている。自動車という文明の乗物できまった村街道を進むのではあるが、外の自然を見ていると、空気に、日光に、原始的な、神代めいた朗かさ、自由さ、豊・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
出典:青空文庫