・・・中には随分手前味噌の講釈をしたり、己惚半分の苦辛談を吹聴したりするものもあったが、読んで見ると物になりそうなは十に一つとないから大抵は最初の二、三枚も拾読みして放たらかすのが常であった。が、その日の書生は風采態度が一と癖あり気な上に、キビキ・・・ 内田魯庵 「露伴の出世咄」
・・・という講釈を聞きながら食うと、なるほどうまかった。 乱暴に白い足袋を踏みつけられて、キャッと声を立てる、それもかえって食慾が出るほどで、そんな下手もの料理の食べ歩きがちょっとした愉しみになった。立て込んだ客の隙間へ腰を割り込んで行くのも・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・こういった調子で、耕吉の病人じみた顔をまじまじと見ては、老父は聴かされた壇特山の講釈を想いだしておかしがった。五十近い働き者の女の直覚から、「やっぱしだめだ。まだまだこんな人相をしてるようでは金なぞ儲けれはせん。生活を立てているという盛りの・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・私はそれが音楽好きで名高い侯爵だということをすぐ知った。そしてその服地の匂いが私の寂寥を打ったとき、何事だろう、その威厳に充ちた姿はたちまち萎縮してあえなくその場に仆れてしまった。私は私の意志からでない同様の犯行を何人もの心に加えることに言・・・ 梶井基次郎 「器楽的幻覚」
・・・近所のお婆さんが来て、勝子の絵本を見ながら講釈しているのに、象のことを鼻巻き象、猿のことを山の若い衆とかやえんとか呼んでいた。苗字のないという子がいるので聞いてみると木樵の子だからと言って村の人は当然な顔をしている。小学校には生徒から名前の・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・と楠公の社に建てられて、ポーツマウス一件のために神戸市中をひきずられたという何侯爵の銅像を作った名誉の彫刻家が、子供のようにわめいた。「イヤとてもわかるものか、わたしが言いましょうか、」と加と男。「言うてみなさい」と今度はまた彫刻家・・・ 国木田独歩 「号外」
・・・ そのうち、売卜者から女難のことを言われ、母からは女難ということの講釈を聞かされましたので、子供心にも、もしか今のが女難ではあるまいかと、ひどくこわくなりましたが、母の前では顔にも出さず、ないない心を痛めていながらも時々おさよのもとに遊・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・エ、侯爵面して古い士族を忘れんなと言え。全体彼奴等に頭を下げぺこぺこと頼み廻るなんちゅうことは富岡の塾の名汚しだぞ。乃公に言えば乃公から彼奴等に一本手紙をつけてやるのに。彼奴等は乃公の言うことなら聴かん理由にいかん」 先ずこんな調子。そ・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
一 何公爵の旧領地とばかり、詳細い事は言われない、侯伯子男の新華族を沢山出しただけに、同じく維新の風雲に会しながらも妙な機から雲梯をすべり落ちて、遂には男爵どころか県知事の椅子一にも有つき得ず、空しく・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・などという句を引いて講釈されると、そうかとも思われる。江南には銅器が多いからである。しかし骨董は果して古銅から来た語だろうか、聊か疑わしい。もし真に古銅からの音転なら、少しは骨董という語を用いる時に古銅という字が用いられることがありそうなも・・・ 幸田露伴 「骨董」
出典:青空文庫