・・・を筆頭として諸家の随筆が売り出されたが、これは寧ろ当時の文学の衰弱的徴候として後代は着目する性質のものなのである。 三 以上のような諸現象が、一部の作家の間に文学の危期としての警戒を呼び醒したのは極めて当然・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 彼女から後代の作家は男であると女であるとにかかわらず、荒い大きい濤にうたれて、一葉が「たけくらべ」で輝やかしている露のきらめきの美しさとはおのずから別種のものとなっているのである。 この全集に、未発表のものが多く集められるというの・・・ 宮本百合子 「人生の風情」
・・・過去の芸術上の美は、改めた目で見直され、改めて美しさのそれぞれの典型として歴史の中に評価され直さなければ、後代の生活感覚の中にそのまま共感され難いところがある。ところが、ブルーノ・タウトの「日本美の再発見」の桂の離宮の美しさの描写にしろ、外・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・ そうして切どおしをのぼり切ると、道灌山つづきの高台の突端に出た。子供の時分の田端の駅は、思えば面白い地形に在ったものだ。 汽車は、平らに低いところを走っている。だから駅も低いところに在らねばならない。そういうわけで、田端の駅は、そ・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・ 第二は、結婚生活を、全く当事者間の箇人的結合と云う点にだけ強調して、互の事業を完成させる為、又は、互の精神的肉体的欠点を後代に遺伝させない為、全然子供を期待しないもの。 最後に、非常な下層民で、生活の機能、人格価値などに対してはま・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ 夜の町 下町のどよめきをかすかに聞いて夜店のにぎやかさ、それをうめて居る軽い浮いた気分、――そうしたものを高台に育った私はなつかしがって居る。屋敷町の単純な色と空気の中で人いきれと灯影でポーッとはにかんで居る様な向・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・暫くすると右手の高台に、まだ新しく、壮大な堂が見えて来た。この堂の建設のために、信徒は三十年も応分の寄附を怠らず、或者は子を大工や左官に仕立ててその技を献納したということだ。ゆるやかな坂をのぼった処で、黒服、鍔広帽の外国宣教師が、村の子とふ・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・スが、ジュピターによって地球の骨といわれたコーカサスの山にしばりつけられ、日毎新しくなる肝臓を日毎にコーカサスの禿鷹についばまれて永遠に苦しみつづけなければならない罰を蒙った、というこの物語の結末を、後代からは叡智の選手のように見られたギリ・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
・・・ 偉大な作家の生涯の記録とその作品とによって今日までのこされている社会的又芸術的な具体的内容は、常に我々にとって尽きぬ興味の源泉であるが、中でも卓越した少数の世界的作家の制作的生涯というものは、後代、文学運動の上に何かの意味で動揺・新・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
慈悲の女神、天使として、フロレンス・ナイチンゲールは生きているうちから、なかば伝説につつまれた存在であった。後代になれば聖女めいた色彩は一層濃くされて、天上のものが人間界の呻吟のなかへあまくだった姿のように語られ描かれてい・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
出典:青空文庫